財政

財政赤字を巡る論点整理の一つの試み

防衛費の増額など政府支出の増加が求められる中、それを増税で賄うのか、それとも国債発行で賄うのか、という議論が折に触れ再燃している。ここでは、そうした論争における各論者の立場の違いを、自分なりに簡単に整理してみる。ある年度の歳出と歳入を考え…

財政赤字のゴルディロックス理論

というNBER論文が上がっている(ungated版)。原題は「A Goldilocks Theory of Fiscal Deficits」で、著者はAtif R. Mian(プリンストン大)、Ludwig Straub(ハーバード大)、Amir Sufi(シカゴ大)。 以下はその要旨。 This paper proposes a tractable fr…

安全資産としての債務

政府債務のバブルに関する研究を以前に紹介したプリンストン大のマーカス・ブルナーメイヤー(Markus K. Brunnermeier)、スタンフォード大のユリ・サニコフ(Yuliy Sannikov)、エクセター大のSebastian A. Merkelの3人が、そのバブルに関する考察を深めた…

財政拡大余地はあるのか?

直近のNBER Working Papersで財政支出の拡大余地を理論面から研究した論文が3本上がっているが、2本は拡大余地に肯定的で、1本は否定的である(ただし肯定的な論文の一本と否定的な論文はゼロ金利下限時を対象にしている)。 一つは、コチャラコタ(Narayana…

財政赤字の愚行

と題したNBER論文で、コトリコフらが、ここやここで紹介したブランシャールやサマーズの低金利の下での赤字財政容認論に異を唱えている(ungated版)。原題は「Deficit Follies」で、著者はJohannes Brumm(カールスルーエ工科大)、Xiangyu Feng(厦門大)…

財政危機の予測:機械学習手法

というIMF論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「Predicting Fiscal Crises: A Machine Learning Approach」で、著者はKlaus-Peter Hellwig。 以下はその要旨。 In this paper I assess the ability of econometric and machine learning technique…

財政赤字ギャンブルの得失

前回エントリで取り上げたマンキューらの財政赤字ギャンブル理論は、その後の経済学の展開を踏まえた現在の観点からすると、以下の2点で考慮不足があるように思われる。 増税によって成長率が下がり、債務GDP比率が想定ほど改善しない、ないし、むしろ悪化す…

財政赤字ギャンブル再訪

マンキューがブログで、「四半世紀後、依然として重要で、おそらくはより重要になっている(Still relevant, maybe more relevant, after a quarter century.)」というコメントを添えて、MarketWatchの記事(注:無料閲覧回数に上限あり)にリンクしている…

FTPLが日本で成立していないように見える理由

プリンストン大のマーカス・ブルナーメイヤー(Markus K. Brunnermeier)とユリ・サニコフ(Yuliy Sannikov)のコンビ*1が、もう一人のプリンストン大の研究者Sebastian A. Merkelと共に、表題の件を分析したNBER論文「The Fiscal Theory of Price Level wit…

税収弾性値の一つの試算・補足

昨日のエントリに対し、シェイブテイルさんからブコメでデフレ期とインフレ期を分けないと意味が無いのでは、というご指摘を頂いた。 そこで試しに、1997〜2010年度に期間を絞って回帰を行ってみると(=昨日リンクしたシェイブテイルさんのエントリのグラフ…

税収弾性値の一つの試算

日本の税収弾性値に関して様々な議論がある。ある人は1を少し超える程度だと言い、ある人は3〜4に達する、と言う。前者の見方をする人は、後者の見方をする人に対し、長期と短期の弾性値の区別が付いていない(例:ここ、ここ)、もしくは平均概念と限界概念…

オバマケアと財政・ある例え話

一昨日のエントリで、Charles Blahousのメディケアに関する「勘違い」をケビン・ドラムが分かり易い比喩で指摘している、と書いた。今日はその例え話を紹介してみる。 ある父親と息子の家庭。父親は政治ブログという仕事で月に100ドル稼いでいる。息子はレモ…

オバマケアと財政・続き

昨日紹介したCharles Blahousのオバマケア財政分析記事から、メディケア支出削減問題以外の指摘を紹介してみる*1。 10年間で700億ドルの収益源となるはずだったCLASS(Community Living Assistance Services and Supports)(cf. 2011/1/21付け本ブログ記事…

オバマケアと財政

マンキューがCharles Blahous*1によるオバマケアの財政分析を「Not a pretty picture」としてリンクしている。オバマケアの財政への影響については、本ブログでも一昨年の1/21エントリで2010/3/20付けのCBO試算を紹介した。Blahous記事がリンクした今年3月の…

ロムニーの税政策は数学的に成立しない?・補足

8/31に取り上げたデロングのフェルドシュタイン批判に対し、フェルドシュタインが(名指しは避けつつも)マンキューブログの場を借りて反論した。ただ、小生が指摘したような論点は前面に押し出さず、批判者の主張を取り入れても、あれやこれや工夫すれば減…

ロムニーの税政策は数学的に成立しない?

ロムニー陣営の経済顧問を務めるフェルドシュタインが、ロムニーの掲げる税政策を擁護する論陣をWSJで張った*1ところ、デロングがそのフェルドシュタイン論説の基本的な数学の間違いを指弾するエントリを上げた(Economist's View経由)。 デロングは返す刀…

コント:ポール君とグレッグ君(2011年第15弾)

一応拾っておきます。 今年最後のエントリはこの方に締めていただきます。 グレッグ君 ポール君が政府債務の負担について幾つかエントリを書いた。この件に関する僕の見解を幾人かの読者から求められたんだが、それについてはラリー・ボールと書いた以前の論…

リカードの中立命題を巡る紛糾・再燃

今年の3月17日に、リカードの中立命題を巡って欧米ブロゴスフィアで巻き起こった論争を紹介したが、年末を前にして再びその論争が再燃した。 きっかけは、クルーグマンがルーカスの以前の言を取り上げ、リカードの中立命題を誤用している、と批判したことに…

ボーン条件についてもう一度よく考え直してみた。

事務屋稼業さんのツイート経由で、畑農鋭矢氏がドーマー条件とボーン条件についてグラフを用いた分かりやすい解説を書かれたことを知った。 ただ、そのうちのボーン条件の解説は、やや単純に過ぎるように思われる。というのは、畑農氏のグラフでは、ボーン条…

財政黒字ギャンブル?

昨日、7/24エントリにコメントを頂き、いろいろとやり取りをさせて頂いたが、その中に、同エントリでの実証結果と7/16エントリのシミュレーション結果をどう整合させるのか、という質問があった。それに対しては、7/16のシミュレーションは取りあえず元論文…

プライマリーバランスの改善はGDPを押し上げるか?

7/16エントリを上げた後、そのエントリでの参照論文の著者である小黒一正氏とツイッター上で意見交換する機会があり、その際、氏の未公表の論文で、プライマリーバランス(PB)の改善が金利と経済成長率の差を縮める可能性を見い出されたことをご教示頂いた…

プラチナが米国を救う?

1996年に、米政府が任意の金額のプラチナ硬貨を造幣できる法案が制定されたという。これを利用して、政府債務の上限を回避できるのでは、というアイディアが米ブロゴスフィアを駆け巡っている(Econospeak(バークレー・ロッサー)、サムナー、フェリックス…

債務上限に関する5つの神話

ブルース・バートレット(Bruce Bartlett)がWaPoのFive Mythsシリーズの7/7記事で表題の件について書いている。 以下はその要約。 債務上限規制は財政支出と財政赤字をコントロールする効率的な手法である まったく違う。歳出入に関する重要な決定は議会の…

何が財政ギャンブルか?

デロングが、以前ここで紹介した計算を繰り返したエントリをブログの最上段に掲げ、緊縮策が却って財政赤字を拡大させる危険性について強く警告している。 そこでふと、今週目にした5年ほど前の小黒一正氏の論文*1(H/T wrong, rogue and booklog)に、この…

米国の政府債務は歳入が低いせい、それとも歳出が高いせい?

と題されたレポートがセントルイス連銀から出されている(原題は「The Federal Debt:Too Little Revenue or Too Much Spending?」;Mostly Economics経由)。 そこでは以下の図が示されている。この図から分かるように、1975-2007年の財政赤字/債務増加は、…

米国の移転支出は過大か?

かねてから今回の経済危機に対する米国の景気対策(ARRA)の効果に懐疑的だったジョン・テイラーが、その主張を論文にまとめ、6/30ブログエントリで紹介した。これに対しノアピニオン氏が、その論文は財政支出の規模が不十分だったというケインジアンの主張…

政府債務の算術

最近3箇所のブログで政府債務に関する簡単な計算を行っているのを目にしたので、メモ代わりに簡単にまとめておく。 クルーグマン 現在の米国の債務の対GDP比率は75%であり、次年度の財政赤字の対GDP比率は7.5%となる。また、名目成長率は4%が見込まれる。 今…

ライアンプランを巡る論争

ポール・ライアン下院予算委員長がまとめた予算削減案が15日に下院で可決された。今月5日には、同案に基づく今後10年間の財政再建見通しが公表されたが、ヘリテージ財団が実施したそのシミュレーションの非現実性について、クルーグマンやEconbrowserのメン…

財政赤字削減のためにマンキューに10億ドルを!

昨日はマンキューブログ経由で知ったホルツイーキンのWSJ論説を紹介したが、マンキューがその次のブログエントリで医療改革法案の財政赤字への影響を次のように戯画化している*1。 I have a plan to reduce the budget deficit. The essence of the plan is …

オバマケアは財政赤字を増やすのか? 減らすのか?

昨秋の中間選挙で共和党が下院を制したことにより、昨春成立した医療改革法案を撤廃する法案が19日に下院で可決された。 同日、ジョージ・W・ブッシュ政権下でCBO局長を務めたダグラス・ホルツイーキン(Douglas Holtz-Eakin)らが、医療改革法案の影響に関…