債務上限に関する5つの神話

ブルース・バートレット(Bruce Bartlett)がWaPoのFive Mythsシリーズの7/7記事で表題の件について書いている


以下はその要約。

  1. 債務上限規制は財政支出財政赤字をコントロールする効率的な手法である
    • まったく違う。歳出入に関する重要な決定は議会の予算審議でなされており、財務省はそれに基づいて歳出の手当てのために証券を発行する。それに対する上限規制は過去の歳出に対する規制ということになり、未来の歳出に対するものではない。また、議会が決めた予算に基づいて財務省が実施する支払いを議会自身が拒否する、というのはまるで理屈に合わない。
    • 議会が債務について議論することを余儀無くさせる、というメリットを挙げる人もいるが、1974年の予算法によって、議会は歳出、歳入、財政赤字の総水準について毎年投票を行うことが義務付けられた。従ってそれ以降、債務規制は屋上屋を架すものとなった。
       
  2. 債務上限引き上げへの反対は党の主張としての問題である
  3. 金融市場は利払いが数日遅れるという「技術的な債務不履行」は気にしない
    • 共和党ロン・ポール議員などはそう主張しているが、単なる希望的観測に過ぎない。格付け機関は利払いの遅れは格下げにつながると警告しており、そうなれば利率は上昇する。
    • JPモルガンの調査によれば、利払いの遅れが短期間でも発生すれば、利率は0.37%上昇すると国内の投資家は予想している。一方、民間保有の債務の半分近くを保有している外資系投資家は、0.5%以上の上昇を予想している。これは財務省の借り入れコストが年間数百億ドル増えることを意味する。
    • そうした利率の上昇は一時的なものに留まると思われるかもしれないが、1979年に、債務上限の引き上げが間に合わなかったことと財務省の小切手の印刷機の故障が重なって2週間の債務不履行が起きた時には、その後数年に亘って利率が0.6%押し上げられた、と1989年の研究では報告されている。
       
  4. 景気の弱含みを考えれば、増税を防ぐために債務不履行の危険を冒すのもやむを得ない
    • 共和党増税への懸念もまったく不合理というわけではないが、多くの経済学者は、1937年の財政支出削減により大恐慌後の景気回復が腰折れしたことを引き合いに出して、現時点での緊縮策は危険だと信じている。
    • それに対し共和党は、増税がとりわけ経済成長にとって良くないと主張しているが、彼らは1982年のレーガン政権の平和時での史上最大規模の増税と1993年のクリントン政権財政赤字削減のための増税の際にも同じことを主張した。いずれの場合にも、経済的破滅を予測した保守派経済学者の予想は完全に間違っており、力強い経済成長が後に続いた。
       
  5. 債務上限の引き上げのためには共和党の協力が欠かせないので、オバマ共和党の予算要求を呑まざるを得ない
    • 共和党は大統領を追い詰めたと信じているが、彼らの手札は思ったより弱いかもしれない。多くの法律学者は、米国憲法修正第14条第4節の「アメリカ合衆国の公共負債の有効性は…問題にされるべきではない」という条文を指摘している。これによって債務の上限規制は違憲になる、という法律学者もいる。
    • 別の法律学者は、この第14条のためにオバマが債務の支払いを最優先し、歳出を一律削減しなくてはならない、と言う。ただその場合は、政府の歳出を定めた別の法律を破ることになる。
    • いずれの場合も、債務上限の引き上げは大統領が法を破ることを余儀無くさせる。問題はどの法を破るか、ということだ。