産業政策を再考する

というハーバード大学経済学部教授のPhillip Aghionらによる小論をMostly Economicsが紹介している(原題は「Rethinking industrial policy」)。


その中で、Mostly EconomicsのAmol Agrawalが「Tariff protection leads to benefits in some cases. Did I hear that right?」と耳(正確には目だろうが)を疑った一節がこれ:

On the empirical front, to our knowledge the most convincing study in support of properly designed industrial policy is by Nunn and Trefler (2010). They measure if tariff protection is biased in favour of activities and sectors that use more highly skilled workers, and find a significant positive correlation between productivity growth and the ‘skill bias’ of tariff protection. Moreover, they show that at least 25 percent of the correlation corresponds to a causal effect. Overall, their analysis suggests that adequately designed (here: skill-intensive) targeting may actually enhance growth, not only in the sector that is being subsidised, but also the country as a whole.
(拙訳)
実証面において、我々の知る限り、適切に設計された産業政策を支持する最も説得的な研究はNunn and Trefler (2010)である。彼らは、関税による保護が熟練度の高い労働者を多く用いる活動や部門に有利に働くようになっているかどうかを測定し、生産性の上昇と、そうした関税による保護の「熟練指向」との相関が有意に正であることを見い出した。さらに彼らは、その相関の少なくとも25%は因果関係に相当するものであることを示した。一般的に言えば、彼らの分析は、適切に設計された(ここで言えば熟練度を強化するような)目標設定は、補助を与えられた部門のみならず国全体において、実際に成長を高めることを示唆している。

Agrawalは「Need to check the paper..」として元の論文へのリンクも張っているが、その要旨には確かに上述のようなことが書かれている。しかし同時に、残りの75%はレントシーキングによるものだろう、とも書かれているのに、その部分がAghionらの小論ではそっくり削られた格好になっている。


なお、Aghionらは、産業政策を今再考すべき理由として以下の3つを挙げている(ちなみにBruegelという欧州のシンクタンクから出しているレポートなので、ここでの政策提言の対象はEU諸国である)。

  1. 温暖化
    • 政府が介入してクリーンテクノロジーへの民間投資をジャンプスタートさせない限り、より「汚い」テクノロジーを振興することになる(民間は放っておくと従来の「汚い」テクノロジーの開発を継続するので)。
  2. 経済危機後の新たな現実
    • 多くの政府が採った自己満足的な自由放任主義は、成長をもたらす貿易財部門を犠牲にした非貿易財部門への誤った投資をもたらした。
  3. 中国やその他の新興国
    • それらの国は成長を高める部門別政策を推進している。


そして、産業政策と競争政策は代替的なものではなく補完的なものだ、と強調した後で、実際の実証研究を参照しながら、産業政策を進めるに当たっての5つの指針を挙げている:

  1. グリーンテクノロジーでの技術革新を促す
  2. 金融の発達が不十分なために技術革新的な新規企業に資金供給が行き渡らないところを補う
  3. 地方分権的な産業政策の方が効果的
  4. 競争的な部門に対して実施した方が効果的
  5. 補助金を少数の企業に集中させない