2016-10-01から1ヶ月間の記事一覧

生産性と利益は無関係?

ジャスティン・フォックスが、生産性の分析からすると米国の製造業はそれほど良い状況に無い、というブルームバーグ論説を書いた(ここ、ここ)のに対し、Dietrich Vollrathが、業界の盛衰を測るのに生産性を使うのは筋違い、と猛反発した(H/T Economist's …

ベンチマークモデルとしてのRBCモデル

前回エントリで紹介したワルドマンのベンチマークモデル論と通底していなくもない議論をEveryday Economistブログが展開している(H/T Economist's View)。 ブログ主(Josh Hendrickson)は、RBCモデルの悪名高い(?)生産性の変動要因について、以下のよ…

ベンチマークモデルの危険性

ロバート・ワルドマンが、経済学研究の便宜上設定された標準モデル(ベンチマークモデル)が経済学者のコンセンサスとして独り歩きし、政策にも影響を及ぼす、という状況の危険性を憂慮している(H/T Economist's View)。そうしたモデルは現実に近いモデル…

中銀の準備預金への支払いの操作を通じた物価安定の達成

スタンフォード大学のロバート・ホール(Robert E. Hall)とLSEのリカルド・ライス(Ricardo Reis)が「Achieving Price Stability by Manipulating the Central Bank's Payment on Reserves」というNBER論文を書いている(ungated版)。 以下はその要旨。 T…

M&Aは価格を上げるが効率性は上げない

ノアピニオン氏の表題のブルームバーグ論説(原題は「Mergers Raise Prices, Not Efficiency」)やEquitablogで紹介されているが、オレゴン大のBruce A. BlonigenとFRBのJustin R. Pierceが「Evidence for the Effects of Mergers on Market Power and Effic…

大統領候補へ:FRBに手を出すな

と題したWaPo論説をアラン・ブラインダーが書いている(原題は「Message to the candidates: Hands off the Federal Reserve」、H/T Economist's View)。 そこでブラインダーは、FRBの改善の可能性(メッセージの発信者を絞って内容をより平易にする、議長…

新たな財政政策の五原則

についてジェイソン・ファーマンCEA委員長が書いている。 以下はその五原則。 低金利世界で従来の金融政策が限界に直面している時、財政政策は特に効果的な補完手段となる。 低金利は危機の副産物というわけではなく、むしろそれに先行していた。先進国の10…

問題は人口動態だよ、馬鹿者!

というFT論説をGavyn Daviesが書いている(原題は「It’s the demography, stupid!」)。 そこで彼は、人口が自然利子率の低下に影響を与える経路として、以下の3つを挙げている*1。 労働供給の伸び率 労働供給の伸び率が低下して、労働に比べて資本が過剰に…

マクロ経済データを解釈する際の7つのコツ

についてCEA委員長のジェイソン・ファーマンが書いている(H/T Economist's View)。 以下はその7項目の概要。 より長期のトレンドを見る 経済データを平滑化する高度な統計技法は数多あるが、トレンドを見るには特に加重しない単純な移動平均で十分。 改訂…

今後の経済学史研究で取り上げるべきテーマ

を経済学史家のBeatrice Cherrier*1が自ブログでウィッシュリストとしてリストアップしている(H/T Mostly Economics)。 以下はその6つのテーマ*2。 「基礎的な」論文と本の歴史 そうした基礎的な文献がどのように作成され、受け入れられ、広まってきたか、…

債券と株式の250年の相関

というエントリがBOEブログに上がっている(H/T Economist's View)。以下はそこで示された月次リターンの10年の後方移動相関の図(データソース)。これについて記事の著者のMatt Roberts-Sklarは以下の点を指摘している。 18-20世紀の大半において、国債は…

大いなる眠り

BOEの広報サイトKnowledgebankで、かつてBOE内に墓地があったことが紹介されている(H/T Mostly Economics)。 Why was there a graveyard inside the Bank of England? The Bank of England moved to its current site on Threadneedle Street in 1734. We …

必要は発明の母:危機後の金融政策

というNBER論文をアラン・ブラインダーらが書いている(ungated版、原題は「Necessity as the Mother of Invention: Monetary Policy after the Crisis」)。著者はAlan Blinder(プリンストン大)、Michael Ehrmann(ECB)、Jakob de Haan(オランダ銀行、…

機械学習と計量経済学が協力すべき最重要分野

昨日紹介したFrancis Dieboldの3連エントリの2番目にHal Varianがコメントし、Dieboldが指摘した問題――機械学習は因果関係の無い予測に重点を置くが、計量経済学は因果関係のある予測に重点を置く――について自分が以前書いた論文を2篇紹介している。一つは機…

機械学習と計量経済学との違い

についてFrancis Dieboldが3つのエントリに亘って論じている(ここ、ここ、ここ;H/T Economist's View)。 彼が挙げた両者の相違は以下の2点。 機械学習は因果関係の無い予測に重点を置くが、計量経済学は因果関係のある予測に重点を置く。 換言すれば、機…

文学としての経済学

というブログエントリをクリス・ディローが書いている(原題は「Economics as literature」)。これは、(8日エントリで紹介した)Avner Offerが、アトランティック誌のインタビューで、経済学は物理学よりも文学に近い(more like literature than like phy…

リカードの等価性とベンチマークモデル

Economist's Viewも取り上げているが、5日エントリで紹介したブランシャールの論考にサイモン・レンールイスが反応している。そこで彼は、ブランシャールの書いた For conditional forecasting, i.e. to look for example at the effects of changes in poli…

技術幻妄

アデア・ターナーが、9日エントリで紹介した論説と一脈通じていなくもない表題のProject Syndicate論説(原題は「The Skills Delusion」)を書いている(H/T 本石町日記さんツイート)。 This disconnect between employment and value added reflects the r…

生真面目な人々と財政赤字

サイモン・レンールイスが、自分の論文に反応したクルーグマンに反応し、財政赤字削減を常に求める一般的な心理を表題のブログエントリ(原題は「Very Serious People and the deficit」)で分析している。 Keynes talked about 'practical men' who tended …

何がブルシット仕事か?

9日エントリは思いがけず沢山のハテブを頂いたが、そこで紹介した記事(ただしストライク誌の初出版)にノアピニオン氏が3年前に反応していたことに気付いた。 As you might expect, Graeber's article was thoroughly panned by most of the economists who…

チープトークによるホルムストロムとハートの業績紹介

ノーベル賞のお祭りの尻馬に乗って、Cheap Talkによる2人の業績紹介を訳してみる(H/T Economist's View)。 Let me begin with the work of Bengt Holmström. The prize announcement begins with his work on the principal-agent model with moral hazard…

闇よ落ちるなかれ

サマーズがポピュリズム的独裁主義の復活に警鐘を鳴らしている。 After seven years of economic over-optimism there is a growing awareness that challenges are not so much a legacy of the financial crisis as of deep structural changes in the glo…

なぜ資本主義は無意味な職を創出するのか

David GraeberというLSEの人類学者が、9/27付の表題のEvonomics記事(原題は「Why Capitalism Creates Pointless Jobs」)で、ケインズの「わが孫たちの経済的可能性」*1の労働時間の予言が間違った理由について、ややマルクス主義的な仮説を立てている(初…

ノーベル経済学賞は社会民主主義に立ち戻るべし

ジャスティン・フォックスがブルームバーグ論説でノーベル経済学賞設立の経緯について書き、Economist's Viewにリンクされたほか、日本語ツイートでも呟かれた(ここ、ここ)。 フォックスがネタ元にしたのは以下の本だが、その著者の一人であるAvner Offer…

「じっちゃんの名にかけて」の経済学

「Do Grandparents and Great-Grandparents Matter? Multigenerational Mobility in the US, 1910-2013」というNBER論文が上がっている。著者はJoseph Ferrie(ノースウエスタン大)、Catherine Massey(ミシガン大)、Jonathan Rothbaum(センサス局)。 以…

第9地区と幼年期の終わりと寄生獣とピーター・シンガー

3日エントリではピーター・シンガーを取り上げたニューヨーカー記事の一部を紹介したが、8/6エントリの冒頭で書いたように、同記事はWikipedia経由で知ったものである。具体的には、シンガーのWikipediaエントリに彼への批判に充てられたセクションがあって…

DSGEの進むべき道

「DSGEモデルに未来はあるか?」という小論を書いて波紋を巻き起こしたブランシャールが、これまでの有名経済学者の反応を基に、DSGEに関する考察を深めている(H/T Economist's View)。 ブランシャールによれば、以下の3点については広く合意が取れている…

コペンハーゲン解釈とルーカス批判

マクロ経済学が権威への盲従によって歪められた、というポール・ローマーの主張を受けて、サイエンスライターのマーク・ブキャナンが、物理学でも過去に同じことが起きていた、として、量子力学においてニールス・ボーアの解釈に皆が従った、という事例を挙…

「奇跡の詩人」とピーター・シンガー

昨日シンガーを取り上げた勢いで、以前紹介したシンガーのプロファイル記事から、重度の障碍を持った女性*1とシンガーとの交流を描いた部分を引用してみる。実は当該記事ではこの部分に最も感銘を受けたのだが、少し調べてみると、8/7エントリの注に記したよ…

相模原障害者殺傷事件とピーター・シンガー

こちらのtogetterを目にして、海外では相模原事件とピーター・シンガーを結び付けた議論はされているのだろうか、とぐぐってみたところ、シンガー自身が豪州ABCのQ&Aという番組でこの問題について追及された際のやり取りを取り上げたデイリーメール記事が見…