2010-10-01から1ヶ月間の記事一覧

インフレと失業の間の厳然たる謎めいたトレードオフ関係

12日のエントリでカール・スミスの経済モデル論を紹介したが、そこでスミスは表題のマンキューの2000年の小論にリンクしている(原題は「The Inexorable and Mysterious Tradeoff Between Inflation and Unemployment」)。 その小論でマンキューは、自らの…

もしも電子に感情があったなら…

物理学はどんなにか難しかっただろうか、とかつてファインマンが述べたという(「Imagine how much harder physics would be if electrons had feelings!」)。この言葉は、アンドリュー・ロー(Andrew Lo)とマーク・ミュラー(Mark Mueller)が書いた論文…

QE2:Solace of Quantum

タイトルはもちろんこの映画のパクリだが、量的緩和の第2弾(QE2)において、貨幣供給の量(quantum)に応じて人々がどの程度の安堵(solace)を得るか、という意味を込めて付けてみた。 WSJブログのこの記事(邦訳)では、バーナンキは次の量的緩和政策につ…

ドイツ経済の復活は持続するか?

という点について少し前にレベッカ・ワイルダーが論じていた。 それによると、最近ではドイツ経済の好調を示す統計が相次いで発表されているという。 8月の鉱工業生産は1.7%上昇した。これはブルームバーグがまとめたエコノミスト予想の0.5%の3倍以上の数字…

名目賃金の下方硬直性による失業は自発的失業か?−補足

昨日のエントリを書いた後で、テイラーの非自発的失業に関するNew Palgraveエントリがネットで読めることをVOX watcherさんのツイートで教えて貰った。それを読むと、昨日のエントリと被る話が幾つか見られるので、以下、思いつくままにピックアップしてみる…

名目賃金の下方硬直性による失業は自発的失業か?

今回の非自発的失業の話に関連してネットを渉猟していたら、今月初めにロバート・ワルドマンとスコット・サムナーが、やはり非自発的失業を巡ってやりあっていたことに気付いた*1。 まず、ワルドマンが非自発的失業を説明するに当たり、一般理論の第二章第二…

ケインズから現代経済学へのメッセージ?

先般話題になった非自発的失業を巡る齊藤誠氏と飯田泰之氏の論争であるが、そもそも非自発的失業の概念を持ち込んだケインズの一般理論を紐解いてみると、恰もこうした論争を予期していたような記述があることに気付いた。 ただ、この一般理論の原文はここや…

世界の頭脳が集まるところ

を地図化した記事がThe Atlanticに掲載されていた(原題は「Where the World's Brains Are」;Economix経由)。書いたのはリチャード・フロリダ(Richard Florida)で、同氏率いるCreative Class Group社のサイトにもクロスポストされている。 以下がその地…

経済理論はどんどんしっちゃかめっちゃかになってきている

とジャスティン・フォックスが今年のノーベル経済学賞の報を受けて書いている(原題は「A Nobel Lesson: Economics is Getting Messier」)。 What this year's prize does clearly indicate is that the Nobel committee believes economic theory is messy…

トレーニングペーパー

昨日のエントリで吉川洋氏の新書の記述を紹介したところ、そんなケインジアンの昔の本を引っ張り出しても…、というような反応を一部で貰った(例:ここ、ここ)。そこで、最近の吉川氏は経済学に関してどのような発言をしているかな、と思ってぐぐってみたと…

トレーニング・デイ

最近持ち上がった齊藤誠氏と飯田泰之氏の論争(というほどのものでも無いかも知れないが)を興味深く拝見したが、非自発的失業に関する齊藤氏の発言 実は、経済学研究の先端で厳格なトレーニングを受けた研究者は、「非自発的失業」や「自発的失業」という言…

ジャパニーズホラーをデフレートする・その2

昨日紹介したディーン・ベーカーのブログエントリを受けて、レベッカ・ワイルダーも10/17NYT記事の悲観的な日本レポートへの反論を書いている。 彼女の批判は以下の3点。 ディーン・ベーカーが指摘したように、1990年から2010年まで日本の平均所得(一人当た…

ジャパニーズホラーをデフレートする

というエントリをディーン・ベーカーが書いている。といっても、もちろんザ・リングを嚆矢とするJホラーの流行に焦点を当てたわけではなく、バブル崩壊後の日本を扱った10/17NYT記事が悲観的に過ぎる、という主旨である。 ベーカーのエントリの概略は以下の…

FRBが金利を低く長く抑え過ぎたことが2000年代のバブルの原因か?

と題された記事がWSJブログに上がっていた(原題は「Did Fed Cause 2000s Bubble by Holding Rates Too Long Too Low?」)。内容は欧州中央銀行のエコノミストAngela MaddaloniとJose-Luis Peydroの共著論文「Bank risk-taking, securitization, supervision…

個人主義の強い国ほど経済成長率が高い

という研究結果がVOXEUで報告されていた。著者はUCバークレーのYuriy GorodnichenkoとGérard Roland。 そこでは以下の2つの図が提示されている。横軸はいずれの図もホフステッドによって開発された個人主義の指標*1であり、縦軸は最初の図が一人当たりGDPの…

マンキュー「左派陣営のブログを炎上させるって楽しいな♪」

okemosさんの予想にお応えして(?)、今日は昨日紹介したマンキューコラムへの各論者の反応を簡単に紹介してみる。 Mark Thoma マンキューならば学者としてではなく、より高給のコンサルタントとしても成功するだろう。そうしないのは、彼にとって金銭がす…

おいらは税金上げても大丈夫だけど、その代わり仕事減らすよ

と題したマンキューの10/9NYTコラムが物議を醸している(原題は「I Can Afford Higher Taxes. But They’ll Make Me Work Less.」)。 そのコラムで彼は、自分が1000ドルの対価で論説記事の執筆を依頼される場面を想定し、その場合の勘定を以下のように3つの…

慈悲深い専制君主の神話を解き明かす

というのが、昨日紹介したイースタリーのエントリで言及されていた9/28エントリのタイトルである(原題は「Solving the mystery of the benevolent autocrat」)。 以下に拙訳で紹介してみる*1。 ステップ1 確かに、経済成長の世界ランキング上位の成功例は…

天にまします我らの中国よ、願わくはみ成長率をあがめさせたまえ

というエントリをイースタリーが書いている(経済学101経由のhttp://ipeatunc.blogspot.com/2010/10/william-easterly-is-shrill.html経由。原題は「Our China who art in heaven, hallowed be thy growth rate」で、この祈りの文句のもじり)。 以下に拙訳…

モデル戦争

昨日や10/9のエントリで触れたModeled Behaviorのカール・スミスによる現在の経済学モデルの分類*1を、以下に簡単に紹介してみる。 リアルビジネスサイクル理論 ケイシー・マリガンはこのグループに属すると思われる。あと多分コクランとファーマも実質的に…

Dr.クルーグマン または私は如何にして金融政策に頼るのを止めて財政政策を愛するようになったか

一昨日のエントリの冒頭では、クルーグマンがエズラ・クラインの要望をきっかけに起こした一連のブログエントリを紹介した。今日は、そのうちのカール・スミスのエントリに反応した10/6エントリの後半部分を紹介する。 But there’s another point Smith rais…

米国は日本の失われた10年を羨むようになるのか?

何だか小生が2年前に書いたエントリのタイトルに似ているが、エズラ・クラインが10/5のエントリをそう題している(原題は「Will America come to envy Japan's lost decade?」)。 同日にニュージアムでクルーグマン、ハッチウス、フェルドシュタインの鼎談…

金融商品への超過需要とジョン・スチュアート・ミル

エズラ・クラインがクルーグマンに、クルーグマンとデロングが使っている経済モデルと、論争相手の使っている経済モデルの違いについて書いてくれ、と頼んだらしく、10/2エントリでクルーグマンがそれに応えている。また、10/4にはフォローアップエントリ(…

約束を破ったバーナンキ

Calculated Riskが10/4エントリでそう非難している。 Calculated Riskが問題にしたのは、同日のロードアイランドでのバーナンキ講演の以下の一節。 Our fiscal challenges are especially daunting because they are mostly the product of powerful underly…

ファット化する軍隊?

10/1に世界の肥満化を警告するOECDレポートに関するEconomix記事を紹介したが、今度は肥満が米軍に与える悪影響についてのNBER論文がWSJブログで取り上げられた。 その論文「Unfit for Service: The Implications of Rising Obesity for U.S. Military Recru…

フラッシュ・クラッシュは仕掛けられたものではない?

6/26エントリでは、5/6の米国株急落(フラッシュ・クラッシュ)は仕掛けられたものではないか、というNanex社(株価のデータベンダー)による分析を紹介した。しかし、9/30に発表されたSECとCFTCの合同調査報告書では、その仮説は否定されている。 以下はそ…

フリードマンならば金融引き締めと緩和のどちらを提言したか?

少し前にテイラーとサムナーが表題の件について議論していた。 まず、テイラーブログの9/3エントリから。 I doubt that he would have approved of the rapid increase in the money supply last year, in part because he would have known that it would b…

ポール・クルーグマンのための歴史授業

昨日のエントリの最後でクルーグマンとメルツァーの確執について触れたが、その脚注でリンクした昨春のメルツァーからクルーグマンへの反論を以下に拙訳で紹介してみる。 ポール・クルーグマンのための歴史授業 アラン・メルツァー 2009年5月5日, 1:51 pm将…

MetzlerとMeltzerのどちらが正しいのか?

昨日紹介した節約のパラドックスを巡る論争について、The Everyday Economistを名乗るジョシュ・ヘンドリクソン(Josh Hendrickson)*1がブログで興味深い指摘を行っている(ベックワースのブログ経由)。 それによると、流動性の罠において貨幣と債券が無差…

貨幣への超過需要か、節約のパラドックスか?

表題の論争が米加ブロゴスフィアで巻き起こっている。 きっかけは、デビッド・ベックワースが、節約のパラドックスとは貨幣への超過需要の表れに過ぎない、と書いたことにある*1。これにデロングが以下のように噛み付いた。 交換媒体としての貨幣への超過需…