昨日紹介したディーン・ベーカーのブログエントリを受けて、レベッカ・ワイルダーも10/17NYT記事の悲観的な日本レポートへの反論を書いている。
彼女の批判は以下の3点。
- ディーン・ベーカーが指摘したように、1990年から2010年まで日本の平均所得(一人当たりGDP)は17%伸びている。米国の33%に比べれば確かにかなり低いが、生活水準が崩壊した訳ではなく、あくまでも成長している*1。NYT記事はデフレの悪影響を過大視しているが、日本が定常的なデフレを経験した1999年から2010年を見ても、平均所得の伸びは9.7%で、米国の10.4%に比肩する*2。
- また、NYT記事は日本の根本的な問題を見過ごしている。それは即ち、労働力人口の縮小である。1999年から2010年の実質GDPの成長率は米国の半分以下(米国23%に対し日本10%)であった。この原因は、デフレではなく、雇用の縮小にあると思われる。実質GDPを雇用人口で割って簡易的に計算した生産性の成長率は、日本が14%に対して米国が17%であり、それほどの差は無い(下図)*3。
- NYT記事の最も重大な過ちは、大規模な財政金融政策の出動にも関わらず経済の低落を反転できなかった、いやむしろ、財政政策の誤りが低迷に寄与したのだ、と記述した点にある。しかし、当該記事にインタビューが引用されたBalance Sheet Recession - Japan's Struggle with Uncharted Economics & Its Global Implicationsの著者である野村総研のチーフ・エコノミストのリチャード・クーは、むしろ逆のことを主張しているので、この記述を不快に思ったに違いない。2008年のクーのプレゼン資料の図9は「1997と2001年の早まった財政再建が経済を弱体化させ、税収を減少させ、財政赤字を増加させた」と題されているが、そのタイトルがすべてを物語っている。1997年に政府は消費税を上げ、その結果、成長率は1.6%から翌年の-2%にまで落ち込んだ(下図)*4。
*1:ワイルダーはベーカーと同じくIMFデータを参照しているが、ただしベーカーがWorld Economic Outlook databaseの2010年4月版を参照していたのに対し、最新の2010年10月版を参照している。なお、日本については2006年以降、米国については2010年はIMFの予測値である。
*2:ただし、例えば2年延長して1997年から2010年を見ると、日本6.8%に対して米国18.0%とその差は大きく広がる。
*3:同期間の雇用人口の変化率は、日本が-3.4%に対して米国が4.4%。この労働力人口の減少を問題視する点で、ワイルダーはベーカーと一線を画している。ちなみに小生は以前、需要制約型の経済においては就業人口ではなく総人口を見るべきではないか、と論じたことがあったが、同期間の総人口の変化率は、日本の0.6%に対して米国は11.1%となっている。
*4:この点については、むしろアジア危機や金融システム不安が主因だろう、というのが日本の経済学の主流派的見解だったかと思われる。cf.dojinさんのサーベイや以下の本。