2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧

統計的生命価値:メタ分析のメタ分析

タイラー・コーエンも取り上げているが、表題のNBER論文が上がっている。原題は「The Value of Statistical Life: A Meta-analysis of Meta-analyses」で、著者はジョージア州立大のH. Spencer Banzhaf。 以下はその要旨。 The Value of Statistical Life (V…

社会民主主義の形成:ノルウェーの1936年の国民学校改革の経済面・選挙面での帰結

アセモグルのNBER論文をもう一丁。以下はDaron Acemoglu(MIT)、Tuomas Pekkarinen(アールト大)、Kjell G. Salvanes(ノルウェー経済高等学院)、Matti Sarvimäki(アールト大)による表題の論文(原題は「The Making of Social Democracy: The Economic …

労働市場での従順さと社会的移動性:社会経済的アプローチ

アセモグルの今月のNBER論文をもう一丁。以下は、表題のNBER論文(原題は「Obedience in the Labor Market and Social Mobility: A Socio-Economic Approach」、ungated版)の要旨。 This paper presents an analysis of what types of values, especially i…

(成功した)民主主義は自らの支持を育む

というNBER論文をアセモグルらが上げている。原題は「(Successful) Democracies Breed Their Own Support」で、著者はDaron Acemoglu(MIT)、Nicolás Ajzenman(サンパウロ・スクール・オブ・エコノミクス)、Cevat Giray Aksoy(欧州復興開発銀行)、Marti…

ワクチンは銀の弾丸ではない?・その2

以前ここで取り上げたように、日本のコロナ検査体制が他国と比較して十分かどうかが一つの議論の的になっているが、事情は米国でも同様らしく、MRブログのアレックス・タバロックが、独英加に比べると米国の検査体制は不十分だ、と嘆いている。ただし、日本…

総裁の眉がコミュニケーションツールだった時

ホールデンの退任講演から、今回は、イングランドの一般とのコミュニケーションが変貌を遂げる前の状況を描写した箇所を引用してみる*1。 At the point I joined the Bank, central banks lived by a mantra of “monetary mystique”. This was more than jus…

フォワードガイダンスの進むべき方向

ホールデンの退任講演から、今回は、イングランド銀行のコミュニケーションの改善の歩みについて語った後、その一つであるフォワードガイダンスについては未だし、と述べた箇所を引用してみる。 When it comes to one particular aspect of transparency - f…

複雑系科学が金融システムについて教えてくれたこと

引き続きホールデンの退任講演から、今回は金融の安定性について複雑系科学を参考にした話を引用してみる。 When it came to assessing risks to the financial system, unlike with monetary policy, there was no off-the-shelf model. In pursuit of one,…

ビールとワイン、ニットウェアとツイード

前回エントリに続き、ホールデンのBOE退任講演から、今度は金融システムの安定化政策の推移について触れた箇所を引用してみる。 At the time, the macro-monetary and financial stability arms of the Bank rarely crossed or co-ordinated. The monetary p…

英国のインフレ目標の最大の危機

本ブログでも何度か取り上げたことのあるイングランド銀行チーフエコノミストのアンドリュー・ホールデンが、9月から王立技芸協会*1のチーフエグゼクティブという意外な転身を遂げることになったが、その退任講演がBOEのHPに上がっている(H/T Mostly Econom…

DSGEモデルの10の誤謬

本ブログでも何度か取り上げたことのあるデルフト工科大学のServaas Stormというオランダの経済学者が、今年2月に「Cordon of Conformity: Why DSGE models Are Not the Future of Macroeconomics」と題したDSGEモデルの10の誤謬を指摘した論文を書いている…

ケインズ氏と「古典派」たち:再解釈の一示唆

というヒックスの有名な論文*1をもじったタイトルのNBER論文をエガートソンらが上げている。原題は「Mr. Keynes and the “Classics”; A Suggested Reinterpretation」で、著者はGauti B. Eggertsson、Cosimo Petracchi(いずれもブラウン大)。 以下はその要…

イスラエルのデータをどう解釈すべきか

アンドリュー・ゲルマンやタイラー・コーエンが紹介しているが、ペンシルベニア大学ペレルマン医学部のJeffrey S. Morris生物統計学教授が立ち上げたコロナ関連の特設サイトで、イスラエルの重症者の数字をどう読むべきか解説している。 以下はその概要。 イ…

元来のフィリップス曲線の復活

というSF連銀のエコノミックレター記事(原題は「Return of the Original Phillips Curve」、著者はコペンハーゲン・ビジネススクールのPeter Lihn JørgensenとSF連銀のKevin J. Lansing)をMostly Economicsが紹介している。以下は同記事からの引用。 The l…

ボーモルの病が生産性上昇につながる時

「The Growth Disease at 50 – Baumol after Oulton」というJochen Hartwig(ケムニッツ工科大学)とHagen Krämer(カールスルーエ応用科学大学)による論文がMike KonczalとSeth Ackermanのツイッターやり取りで紹介されている(H/T タイラー・コーエン)。…

デルタ・シュトラウシアニズムの誘惑

アストラゼネカの開発責任者だったアンドリュー・ポラード・オックスフォード大学教授が集団免疫の可能性を否定した、というニュースが話題になったが、シドニー・モーニング・ヘラルド紙が「AstraZeneca lead scientist says Delta makes mass testing poin…

ばらつく統計的生命価値:米陸軍再入隊の決断による実証研究

以前ここで取り上げた統計的生命価値(VSL)について、一風変わった切り口で推計した表題のNBER論文が上がっている。原題は「The Heterogeneous Value of a Statistical Life: Evidence from U.S. Army Reenlistment Decisions」で、著者はKyle Greenberg(…

財政拡大余地はあるのか?

直近のNBER Working Papersで財政支出の拡大余地を理論面から研究した論文が3本上がっているが、2本は拡大余地に肯定的で、1本は否定的である(ただし肯定的な論文の一本と否定的な論文はゼロ金利下限時を対象にしている)。 一つは、コチャラコタ(Narayana…

マスク義務化は命を救う

というIMF論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「Mask Mandates Save Lives」で、著者はNiels-Jakob H Hansen、Rui C. Mano。以下はその要旨。 We quantify the effect of mask mandates in the United States. Our regression discontinuity desig…

気候変動の金融をどう考える?

というNBER論文が上がっている(H/T Mostly Economics)。原題は「What Do You Think About Climate Finance?」で、著者はNYUのJohannes Stroebel、Jeffrey Wurgler。以下はその要旨。 We survey 861 finance academics, professionals, and public sector r…

「平和の経済的帰結」を書いたケインズがなぜノーベル平和賞を受賞しなかったのか?

という論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「Why Was Keynes Not Awarded the Nobel Peace Prize After Writing ‘The Economic Consequences of the Peace’?」で、著者はランド大のLars Jonung。以下はその要旨。 John Maynard Keynes became worl…

金融政策の分配効果

ケネス・ロゴフが中央銀行が格差拡大に対してできることには限界がある、という主旨のProject Syndicate論説を書いていたが(H/T 本石町日記さんツイート)、概ね同趣旨の表題のIMF論文をMostly Economicsが紹介している。論文の原題は「Distributional Effe…

幸福度分析はCOVID-19ウイルス削減戦略を支持する

というNBER論文が上がっている。原題は「Well-being Analysis Favours a Virus-Elimination Strategy for COVID-19」で、著者はJohn F. Helliwell(ブリティッシュコロンビア大)、Max B. Norton(同)、Shun Wang(韓国開発研究院(KDI)国際政策大学院)、…

ソビエトの1932-33年の大飢饉の政治経済的な原因

一昨年に映画も製作された*1ホロドモールを取り上げた表題のNBER論文が上がっている(cf. 昨年9月時点のWP、タイラー・コーエンの紹介、Mostly Economicsの紹介)。論文の原題は「The Political-Economic Causes of the Soviet Great Famine, 1932–33」で、…

医師と看護師のソーシャルメディア広告による休暇旅行とコロナ感染の減少:クラスターランダム化比較試験

お盆休みを控えた日本にも関係しそうな表題のNBER論文をバナジー=デュフロらが上げている。原題は「Doctors' and Nurses' Social Media Ads Reduced Holiday Travel and COVID-19 Infections: A Cluster Randomized Controlled Trial」で、著者はEmily Brez…