ソビエトの1932-33年の大飢饉の政治経済的な原因

一昨年に映画も製作された*1ホロドモールを取り上げた表題のNBER論文が上がっている(cf. 昨年9月時点のWP、タイラー・コーエンの紹介、Mostly Economicsの紹介)。論文の原題は「The Political-Economic Causes of the Soviet Great Famine, 1932–33」で、著者はAndrei Markevich(ニューエコノミックスクール), Natalya Naumenko(ジョージメイソン大)、Nancy Qian(ノースウエスタン大)。
以下はQianの研究紹介サイトでのまとめ。

We document several new facts about the Soviet Great Famine, 1932–33: i) there was no aggregate food shortage; ii) regional mortality rates were unrelated to per capita food production, but positively associated with ethnic Ukrainian population share; and iii) the political loyalty of the local elites to the regime was more positively associated with famine mortality, collectivization and state food procurement in regions with a larger Ukrainian population share; iv) famine mortality was higher in the areas with stronger peasant resistance, and this correlation was more pronounced in regions with a larger share of ethnic Ukraniansxx resistance?. We find that ethnic bias against Ukrainians in Soviet policy explains 77% of famine deaths in Russia, Ukraine and Belarus, and 92% in the Ukraine.
(拙訳)
我々は、1932-33年のソビエトの大飢饉について幾つかの新たな事実を立証した。

  1. 全体では食糧は不足していなかった
  2. 地域の死亡率は一人当たりの食糧生産高とは無関係だったが、ウクライナ人の人口比率と正の相関があった
  3. ウクライナ人の人口比率が高い地域では、地域のエリートの体制に対する政治的忠誠度が、飢餓による死亡率、集団化、国による食糧の獲得と相関が高かった
  4. 農民の抵抗が強い地域で飢餓の死亡率が高く、この相関はウクライナ人による抵抗の割合が大きい地域で顕著だった

我々は、ソビエトの政策におけるウクライナ人に対する民族的偏りがロシア、ウクライナベラルーシにおける飢餓による死の77%を説明し、ウクライナでは92%を説明することを見い出した。

*1:

ただしWikipediaの英語版などにあるようにこの映画の歴史的正確性には疑問符が付けられている。