最も効果的なナッジの選択:免疫の大規模実験の実証結果

およそ1年前にバナジー=デュフロ夫妻らのコロナ感染防止に関するRCTを紹介したことがあったが、そのワクチン版(ただし対象はコロナではなく麻疹)とでも言うべき表題のNBER論文が上がっている。原題は「Selecting the Most Effective Nudge: Evidence from…

なぜコロナ禍前の失業率はあれほど低かったのか?

タイラー・コーエンが表題のエントリ(原題は「Why was pre-Covid unemployment so low?」)で、最近お気に入り*1のMarianna Kudlyak(SF連銀)が昨年2月に書いた論文へのリンクページを紹介している。論文のタイトルは「Why Is Current Unemployment So Low…

雇用の回復速度とZMP仮説

10年前にタイラー・コーエンのZMP労働者(Zero marginal product workers=限界生産力がゼロの労働者)仮説がクルーグマンらに叩かれている様を紹介したことがあったが、本ブログで先月末に紹介したHall=Kudlyakの研究*1などを基に、コーエンが、皆に叩かれ…

技術革新が道を踏み外す時:技術退歩とオピオイド禍

エドワード・グレイザーの5月のNBER論文をもう一丁。以下はDavid M. Cutler、Edward L. Glaeser(いずれもハーバード大)による表題の論文(原題は「When Innovation Goes Wrong: Technological Regress and the Opioid Epidemic」)の要旨。 The fivefold …

今日の発展途上国の都市は、都市の歴史から何を学べるか?

エドワード・グレイザー(Edward L. Glaeser)の今度は5月の単著NBER論文を紹介してみる。以下は表題の論文(原題は「What Can Developing Cities Today Learn From the Urban Past?」)の要旨。 The downsides of density, including traffic congestion, …

経済分析とインフラ投資

エドワード・グレイザーの昨年末のNBER論文をまたもう一丁。以下はEdward L. Glaeser(ハーバード大)、James M. Poterba(MIT)による表題の論文(原題は「Economic Analysis and Infrastructure Investment」)の要旨。 This paper summarizes economic re…

ジェントリフィケーションと近隣の変貌:Yelpによる実証結果

エドワード・グレイザーの昨年末のNBER論文をもう一丁。以下はEdward L. Glaeser、Michael Luca、Erica Moszkowski(いずれもハーバード大)による表題の論文(ungated版、原題は「Gentrification and Neighborhood Change: Evidence from Yelp」)の要旨。 …

インフラと都市形態

というNBER論文(原題は「Infrastructure and Urban Form」)をエドワード・グレイザー(Edward L. Glaeser)が昨年末に上げている。以下はその要旨。 Cities are shaped by transportation infrastructure. Older cities were anchored by waterways. Ninet…

点目標、許容範囲、もしくは目標範囲? インフレ目標の種類とインフレ予想の固定化

というECB論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「Point targets, tolerance bands, or target ranges? Inflation target types and the anchoring of inflation expectations」で、著者はMichael Ehrmann。 以下はその要旨。 Inflation targeting i…

財政危機の予測:機械学習手法

というIMF論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「Predicting Fiscal Crises: A Machine Learning Approach」で、著者はKlaus-Peter Hellwig。 以下はその要旨。 In this paper I assess the ability of econometric and machine learning technique…

AIと仕事:オンライン求人についての実証結果

アセモグルの共著NBER論文をもう一丁。以下は昨年末に上げられたDaron Acemoglu(MIT)、David Autor(同)、Jonathon Hazell(プリンストン大)、Pascual Restrepo(ボストン大)による表題の論文(ungated版、原題は「AI and Jobs: Evidence from Online V…

文化、制度、社会的均衡:ある枠組み

というNBER論文(原題は「Culture, Institutions and Social Equilibria: A Framework」)をアセモグル=ロビンソンが上げている(ungated版)。以下はその要旨。 This paper proposes a new framework for studying the interplay between culture and inst…

米企業のインフレ予想:新規調査の実証結果

というNBER論文をCoibionとGorodnichenkoのコンビらが上げている(ungated版)。原題は「The Inflation Expectations of U.S. Firms: Evidence from a new survey」で、著者はBernardo Candia(UCバークレー)、Olivier Coibion(テキサス大オースティン校)…

アーサー・バーンズの亡霊

というProject Syndicate論説をスティーブン・ローチ(Stephen S. Roach)が書いている(原題は「The Ghost of Arthur Burns」、H/T Mostly Economics)。全体の内容についてはThe Financial Pointerさんが上手に要約されているが、景気循環の大家であったバ…

マラドーナはミニマックスをプレーしていた

というLSEのIgnacio Palacios-Huertaの論文(原題は「Maradona Plays Minimax」)をタイラー・コーエンが紹介している。 以下は論文本文からの引用。 Consider the simplest version of a penalty kick: a 2 × 2 model of players' actions where m = {L, R}…

致死的な差別:職場の安全にとって「消失女人」が持つ意味

というNBER論文が上がっている。原題は「Deadly Discrimination: Implications of "Missing Girls" for Workplace Safety」で、著者はZhibo Tan,(IMF)、Shang-Jin Wei(コロンビア大)、Xiaobo Zhang(北京大)。 以下はその要旨。 We examine an indirect…

パンデミック時の政策介入は技術的解決と組み合わせてこそ意味がある

という主旨のNBER論文「Behavior and the Dynamics of Epidemics」をUCLAのAndrew Atkesonが上げている*1。以下はその要旨。 I use a model of private and public behavior to mitigate disease transmission during the COVID pandemic over the past year…

デット・オーバーハングは金融危機での家計の支出削減をもたらしてはいない

と主張したNBER論文をスヴェンソンが2週連続で上げている。1週目の「Household Debt Overhang Did Hardly Cause a Larger Spending Fall during the Financial Crisis in Australia」はオーストラリアについての分析で、2週目の「Household Debt Overhang Di…

大規模ワクチン接種中の州全体の活動再開:移動、公衆衛生、および経済活動に関するテキサスの実証結果

COVID-19に関する実証研究を精力的に行っているDave=Sabia*1が、今度はワクチン接種下の再開政策の影響を調べた表題のNBER論文を上げている。原題は「Statewide Reopening During Mass Vaccination: Evidence on Mobility, Public Health and Economic Acti…

クレジット・ホライゾン

というNBER論文を清滝=ムーアらが上げている(ungated版)。論文の原題は「Credit Horizons」で、著者はNobuhiro Kiyotaki(プリンストン大)、John Moore(エジンバラ大)、Shengxing Zhang(LSE)。 以下はその要旨。 Entrepreneurs appear to borrow lar…

財政赤字ギャンブルの得失

前回エントリで取り上げたマンキューらの財政赤字ギャンブル理論は、その後の経済学の展開を踏まえた現在の観点からすると、以下の2点で考慮不足があるように思われる。 増税によって成長率が下がり、債務GDP比率が想定ほど改善しない、ないし、むしろ悪化す…

財政赤字ギャンブル再訪

マンキューがブログで、「四半世紀後、依然として重要で、おそらくはより重要になっている(Still relevant, maybe more relevant, after a quarter century.)」というコメントを添えて、MarketWatchの記事(注:無料閲覧回数に上限あり)にリンクしている…

危険な哲学者・再訪・補足

前回エントリで引用したシンガーインタビューで言及されていた「飢えと豊かさと道徳」の原論文「Famine, Affluence, and Morality」がネットで読めることに気づいたので、インタビューでシンガーが「これ以上施したら当該の人物に恩恵を与えるのと同じくらい…

危険な哲学者・再訪

5年近く前に本ブログでピーター・シンガーを取り上げた1999年のニューヨーカー記事を紹介したことがあったが、同誌の別の記者(Daniel A. Gross)がシンガーにインタビューし、最後に当時の記事の取り上げ方について訊いている(H/T タイラー・コーエン)。 …

銃撃事件が子供たちに残す後遺症

について調べた2本の論文が今月初めにNBERに同時に上がっている。一つはMostly Economicsやタイラー・コーエンも紹介しているウトヤ島事件を扱った「Surviving a Mass Shooting」で、著者はPrashant Bharadwaj(UCサンディエゴ)、Manudeep Bhuller(オスロ…

黒死病の経済的影響

引き続き過去の疫病ネタ。以下はRemi Jedwab(ジョージ・ワシントン大)、Noel D. Johnson(ジョージ・メイソン大)、Mark Koyama(同)の表題(原題は「The Economic Impact of the Black Death」)のJournal of Economic Literature掲載予定論文(昨年8月…

1918-20年のスペイン風邪パンデミックを経済学者は如何に無視したか

というSSRN論文(原題は「How Economists Ignored the Spanish Flu Pandemic in 1918-20」)をブラジリア大のMauro Boianovskyとアントワープ大のGuido Erreygersが上げている(H/T Mostly Economics)。以下はMostly Economicsで引用されている論文の結論部…

カズオ・イシグロのキャンセル・カルチャー批判

御田寺圭(白饅頭)氏の現代ビジネス記事が物議を醸している。同記事で白饅頭氏は、「リベラルは多様性を反映することを心掛けるべき」という趣旨のカズオ・イシグロの言を冒頭で引用した上で、リベラルにおける画一的な価値観への同調圧力を槍玉に挙げた。…

クルーグマン「マクロ経済学はISLM派の勝利で決着がついた(ただし一部のおかしな連中を除く)」

バイデンプランを巡る経済学者の論争(cf. ここ)についてノアピニオン氏がブログエントリを書いたところ(邦訳)、クルーグマンがツイッターで以下のように異論を唱えた*1。 So actually I think Noah, unusually, has this mostly wrong. These macro wars…

望月氏のABC理論の証明の何が問題になっているのか?

既にニュースで報じられているように、京都大学の望月新一教授によるabc予想の証明が査読を経てPRIMS特別号電子版に3月4日付で掲載されたが、本ブログの過去のエントリ(ここ、ここ、ここ)で紹介した海外の学者と望月氏との溝はむしろ深まったようである。…