余儀ない移民と難民:経済的・社会的統合を成功させるための政策

クルド人問題やウクライナからの避難民を受けて日本でもタイムリーになっているテーマを扱った表題のNBER論文が上がっているungated版へのリンク)。原題は「Forced Migration and Refugees: Policies for Successful Economic and Social Integration」で、著者はDany Bahar(ブラウン大)、Rebecca J. Brough(UCデービス)、Giovanni Peri(同)。
以下はその要旨。

The inflow of refugees and their subsequent integration can be an important challenge for both the refugees themselves and the host society. Policy interventions can improve the lives and economic success of refugees and of their communities. In this paper, we review the socioeconomic integration policy interventions focused on refugees and the evidence surrounding them. We also highlight some interesting topics for future research and stress the need to rigorously evaluate their effectiveness and implications for the successful integration of refugees.
(拙訳)
難民の流入とその後の統合は、難民自身と受け入れ国の両者にとって重要な課題となり得る。政策措置によって、難民ならびにその共同体の生活と経済的成功は改善することができる。本稿で我々は、難民に焦点を当てた社会経済的統合のための政策措置と、それに関する実証結果を概観する。我々はまた、将来の研究にとって興味深い幾つかのトピックに焦点を当て、難民が上手く統合するためにはその効果と意味合いを厳密に評価することが必要であることを強調する。

ungated版へのリンクには、論文の内容をまとめたブログ記事へのリンクもあるが、同記事の内容は概ね以下の通り(一部、本文の内容で補完)。

  • 難民への人道的な支援(住居、食料、安全、医療など)は国際社会で明白な優先的課題として扱われ、そのこと自体は正しいが、その結果、難民の経済社会的な統合は2次的な問題とされ、見過ごされがちである。難民がいずれは母国に戻ると考えられていることが背景にあるが、母国での紛争等の問題が長く続くことから、難民とその家族が移住先に定住することも多い。
  • にもかかわらず、難民の統合を円滑化する上でどの政策が有効でどの政策がそうではないかについて知られていることは少ない。本研究ではそれをまとめた。
    • その際、受け入れ国が先進国か発展途上国かで話が違ってくるので、分けて論じた。
  • 以下は各政策の評価:
    • 言語教育は雇用機会と社会的統合を進める上で極めて重要。
    • 積極的な労働市場政策(active labor market policies=ALMPs)は、結果はまちまちであるものの、難民の個別のニーズに合わせるようにした場合は有効性が高まる。即ち、導入にはきめ細かいアプローチが必要。
    • 現金給付は短期的な厚生の改善には効果的。プラスの効果が短期を超えて続くかどうかは、現金が生存のために必要か、それとも貯蓄や投資の決定に使えるかに依存する。
    • 雇用ギャップを埋めるためのAIの利用、難民への民間のスポンサーシップ、統合過程における難民主導組織の活用、といった政策も大きな成果と費用効率性を生む可能性はあるが、厳密なエビデンスはまだ乏しいので、さらなる研究が必要。
  • 最初の配置戦略と、共同体ネットワークの役割に関する議論は、費用効率の高い統合にとって既存の社会構造を利用することの重要性を浮き彫りにしている。
  • 政策の全体的な効果は、スケーラビリティに因るところが極めて大きい。
    • 従って、個人レベルでは顕著な効果があっても、スケーラビリティがないと厳しいかもしれない。例えば前述のALMPsは、カスタマイズが必要で、雇用者を初めとする様々な関係者を巻き込む必要があるので、スケーラビリティという点では難がある。
    • 一方、言語教育は、スケーラビリティが高く、費用効率も高い。技術とオンラインプラットフォームによりますます効果が高まっている。
  • 当座のニーズ、スケーラビリティ、長期の影響について最善のバランスを提供するようなエビデンスベースの政策措置に注力することで政策担当者は、統合政策の便益が広く長く感じられるようにすることができる。
  • 研究コミュニティが本稿で提示されたアイディアをさらに発展させてくれれば本望。それによって難民自身が利益を得るだけでなく、受け入れ国の成長と繁栄にも資するようになるのが望ましい。