世界の半導体部門における産業政策

というNBER論文が上がっているungated版へのリンクがある著者の一人のページ)。原題は「Industrial Policy in the Global Semiconductor Sector」で、著者はPinelopi K. Goldberg(イェール大)、Réka Juhász(ブリティッシュコロンビア大)、Nathan J. Lane(オックスフォード大)、Giulia Lo Forte(ブリティッシュコロンビア大)、Jeff Thurk(ジョージア大)。
以下はその要旨。

The resurgence of subsidies and industrial policies has raised concerns about their potential inefficiency and alignment with multilateral principles. Critics warn that such policies may divert resources to less efficient firms and provoke retaliatory measures from other countries, leading to a wasteful "subsidy race." However, subsidies for sectors with inherent cross-border externalities can have positive global effects. This paper examines these issues within the semiconductor industry: a key driver of economic growth and innovation with potentially significant learning-by-doing and strategic importance due to its dual-use applications.
Our study aims to: (1) document and quantify recent industrial policies in the global semiconductor sector, (2) explore the rationale behind these policies, and (3) evaluate their economic impacts, particularly their cross-border effects, and compatibility with multilateral principles. We employ historical analysis, natural language processing, and a model-based approach to measure government support and its impacts. Our findings indicate that government support has been vital for the industry's growth, with subsidies being the primary form of support. They also highlight the importance of cross-border technology transfers through FDI, business and research collaborations, and technology licensing. China, despite significant subsidies, does not stand out as an outlier compared to other countries, given its market size.
Preliminary model estimates indicate that while learning-by-doing exists, it is smaller than commonly believed, with significant international spillovers. These spillovers likely reflect cross-country technology transfers and the role of fabless clients in disseminating knowledge globally through their interactions with foundries. Such cross-border spillovers are not merely accidental but result from deliberate actions by market participants that cannot be taken for granted. Firms may choose to share knowledge across borders or restrict access to frontier technology, thereby excluding certain countries. Future research will use model estimates to simulate the quantitative implications of subsidies and to explore the dynamics of a ``subsidy race'' in the semiconductor industry.
(拙訳)
補助金と産業政策の復活は、その潜在的な非効率性と、多国間主義の原則との整合性に対する懸念を提起した。批判者は、そうした政策が効率性に劣る企業に資源を流用し、他国からの報復政策を招き、無駄な「補助金競争」につながる、と警告する。しかし、本来的に国境を越えた外部性を持つ部門への補助金は、正の世界的な効果を持つ可能性がある。本稿は半導体産業におけるこうした問題を調査した。同部門は経済成長と技術革新の主要な要因であり、試行錯誤による学習の大いなる可能性と、デュアルユースへの応用による戦略的重要性を秘めている。
我々の研究は、(1) 世界の半導体部門における最近の産業政策を明らかにして定量化すること、(2) そうした政策の理論的根拠を追究すること、および、(3) その経済的影響、特に国境を越えた影響と、多国間主義の原則との両立性を評価すること、を目的とした。我々は歴史的な分析、自然言語処理、およびモデルに基づく手法を適用し、政府支援とその影響を計測した。我々の発見が示すところによれば、政府支援は同産業の成長にとって不可欠であり、補助金は支援の主要な方策であった。また、海外直接投資を通じた国境を越えた技術移転、共同事業と共同研究、および技術ライセンスの重要性も浮き彫りとなった。中国は、多額の補助金にもかかわらず、市場規模を考えると他国に比べて外れ値として突出しているわけではない。
取りあえずのモデル推計では、試行錯誤による学習は存在するものの、一般に思われているよりはその規模は小さく、有意な国際的な波及効果があることが示された。この波及効果は、国境を越えた技術移転と、ファブレスの顧客がファウンドリーとのやり取りを通じて世界的に知識を伝播する役割を反映している可能性が高い。そうした国境を越えた波及効果は、単なる偶然ではなく、当然と見做すことはできない市場参加者の計画的な行動の結果である。企業は国境を越えて知識を共有するか、もしくは先端技術へのアクセスを制限し、特定の国を除外するか、を選択する。今後の研究では、モデル推計を用いて補助金定量的な重要性をシミュレートし、半導体部門における「補助金競争」の動学を追究する予定である。

日本についてはかつての通産省による産業政策について言及されているほか、各国の最近の政策をまとめた表で2020-2021年の3つの政策*1が挙げられている。

党派別の予想とコロナ禍期のインフレ

というNBER論文が上がっている。原題は「Partisan Expectations and COVID-Era Inflation」で、著者はCarola Binder(テキサス大学オースティン校)、Rupal Kamdar (インディアナ大)、Jane M. Ryngaert(ノートルダム大)。
以下はその要旨。

We document that, during the COVID-19 era, the inflation expectations of Democrats remained strongly anchored, while those of Republicans did not. Republicans' expectations not only rose well above the inflation target, but also became more sensitive to a variety of shocks, including CPI releases and energy prices. We then exploit geographic variation in political affiliation at the MSA level to show that the partial de-anchoring of expectations had implications for realized inflation. Counterfactual exercises imply that, had all expectations become as unanchored as those of Republicans, average inflation would have been two to three percentage points higher for much of the pandemic period, ceteris paribus.
(拙訳)
コロナ禍において、民主党員のインフレ予想は強く固定されていた半面、共和党員のインフレ予想はそうではなかったことを我々は明らかにした。共和党員の予想は、インフレ目標を大きく上回って上昇しただけでなく、CPI公表やエネルギー価格など様々なショックに対しより敏感になった。次に我々は、MSA*1レベルの所属政党の地理的なばらつきを利用し、部分的に予想のアンカーが外れたことが実際のインフレに影響したことを示した。反実仮想のシミュレーションによれば、すべての予想が共和党員の予想と同様に上放れしていたならば、他の条件が等しいとして、コロナ禍期の大部分において平均インフレは2から3%ポイント高くなっていた。

インフレに対する理解に党派性があることはなぜ我々はインフレを嫌うのか? - himaginary’s diary人々のインフレ理解 - himaginary’s diaryで紹介した Stantchevaらの論文でも示されていたが、この論文によると、実現したインフレにもそれが影響したとのことである。日本でも現在のインフレをアベノミクスのせいとするか否かに党派性があることはSNSでは観察されるところであるが、それがインフレ予想にも影響し、ひいては実際のインフレにも影響しているかどうかは興味が持たれるところである。

推移するレジームの動学

というNBER論文が上がっている昨年3月時点のWP)。原題は「Dynamics in Evolving Regimes」で、著者はJeffrey A. Frankel(ハーバード大)、Yao Hou(ロチェスター大)、Danxia Xie(清華大)。
以下はその要旨。

This paper develops a new econometric framework to estimate and classify exchange rate regimes. They are classified into four distinct categories: fixed exchange rates, BBC (band, basket and crawl), managed floating, and freely floating. The procedure captures the patterns of exchange rate dynamics and the interventions by authorities under each of the regimes. We pay particular attention to the BBC and offer a new approach to parameter estimation by utilizing a three-regime Threshold Auto Regressive (TAR) model to reveal the nonlinear nature of exchange rate dynamics. We further extend our benchmark framework to allow the evolution of exchange rate regimes over time by adopting the minimum description length (MDL) principle, to overcome the challenge of simultaneous two-dimensional inference of nonlinearity in the state dimension and structural breaks in the time dimension. We apply our framework to 26 countries. The results suggest that exchange rate dynamics under different regimes are well captured by our new framework.
(拙訳)
本稿は、為替相場ジームを推計し分類する新たな計量経済学の枠組みを構築する。それらは4つの独立したカテゴリに分類される。固定相場、BBC(バンド、バスケット、クロール)、管理変動相場、自由変動相場である。手順では、為替相場の動学と各レジーム下での当局の介入のパターンを捕捉する。我々は特にBBCに注目し、3レジー閾値自己回帰(TAR)モデルを用いたパラメータ推計の新たな手法を提示し、為替相場の動学の非線形な性質を明らかにした。我々はまた、我々のベンチマークの枠組みを拡張し、最小記述長(MDL)*1原則を適用することにより為替相場ジームが時間と共に推移することを許容し、状態次元における非線形性と時間次元における構造的な断層の2次元同時推計という課題を克服した。我々はこの枠組みを26か国に適用した。その結果は、異なるレジーム下での為替相場の動学が我々の新たな枠組みで上手く捉えられていることを示している。

WPの冒頭では、金融当局が公言している為替相場制と実際の為替相場制が大きく違うことが、研究者が実際の分類を試みる研究動機となっていることを指摘している。

今回の研究の対象国は以下の通り

導入部では、広く知られた変動相場制の国(オーストラリア、カナダ)、ペッグ制を厳守する国(中東の原油輸出国)、中間レジームを採る国(アジア、中南米)をサンプルに含めた、としている。

以下は判定のフロー図。

以下は結論部に記された主要な結果。

  • 変動相場制の国は、当然ながらほとんどの期間は為替を変動させるが、外為市場に介入する能力を完全に放棄したわけではなく、大きく変動した場合には安定化のために力強い対応を実施する。
  • BBCジームは、中間レジームを追求する国で広く採用されている。そのうちシンガポール、南ア、メキシコ、コロンビア、タイでは、比較的安定した目標範囲と、範囲を外れた場合に介入する一貫したルールを長期的に維持している。
  • 管理変動相場制を維持する国は少なく、期間も短い。
  • 時変的な統計的推計を可能にしたことにより、中国、インド、ロシアという重要な新興国における過去20年間の為替相場ジームの変化も明らかになった。
    • 中国は2005年の制度改革とその後の取り組みにより、為替相場の変動性が徐々に増した。ただ、範囲を外れた場合の介入の強度は減じておらず、期間を通じてその強度は高かった。
    • インドとロシアも同様に固定相場制から管理変動相場制に移行したが、中国よりも大きな変動を許容している。ただし介入はまだ時折り行っている。

インフレについての6つの考え

マンキューがNBERコンファレンスで明らかにした。以下はその概要。

  1. フィリップス曲線は厳然として存在する
    • インフレと失業率の無条件の関係としてはもはや存在しないが、条件付きの関係としては存在する。
      • 金融ショック、ないし総需要ショックは、インフレと失業率を短期的に逆方向に動かす。これを短期のフィリップス曲線と定義すると、これから逃れることはできない。
  2. しかしフィリップス曲線は実務的に有用なツールではない
    • フィリップス曲線はマクロ経済理論の重要な部品、という点については断固として擁護するが、実務的なツールとしてはさほど重視していない。
      • NAIRUの推計は信頼区間があまりにも大きい。
      • フィリップス曲線が軌道から外れるたびに研究者は新たな定式化を提案してきたが、それはあまりにも頻繁に起きており、聖杯探しに似た状況になっている。
        • 失業率よりもフィリップス曲線の当てはまりの良い経済のスラックの指標を研究者は探し求めてきたが、最終的な成功を収めていない。予想インフレや供給ショックについても同様。
  3. 供給と需要をリアルタイムに分離するのはほぼ不可能
    • 理由は、自然失業率を正確に把握できないため。
    • 後知恵でも難しいのに、データが揃っていないリアルタイムではまず無理。しかし政策担当者はリアルタイムに対応する必要がある。
    • 予想が重要な役割を果たしていることが、事態をさらに難しくしている。
    • 2022年のインフレは良い例だった。原因はコロナ禍に関連した供給網の混乱だったのか、失業率がNAIRUを下回ったことによる需要の過剰だったか、あまりにも長く緩和的だった金融財政政策に予想が反応したためか、いずれの可能性もある。最も可能性が高いのは、その3つの組み合わせだったが、ウエイトは分からない、というもの。
  4. 経済学者はカルボの呪縛から逃れるべき
    • カルボモデルは価格設定についての洗練された理論であり、自分も洗練さは大いに評価する。しかしそのインフレ動学はデータと合わない。
      • 金融ショックはラグをもって実体経済活動に影響し、インフレにはさらに長いラグをもって影響する。しかしカルボモデルではインフレは素早く調整する。そのため研究者は、一部の価格が過去のインフレに自動的に連動する、といったアドホックな修正でモデルを補完している。
    • 実証的により尤もらしいインフレ動学を提示する価格設定モデルは、カルボモデルとは違う予想を使っている。
      • カルボモデルは将来のインフレについての現在の予想を使っているが、それらのモデルは現在のインフレについての過去の予想を使っている。
    • あるいはフィリップス曲線の正しい変数は、予想インフレではなくインフレのノルムなのではないか。
  5. 貨幣集計量はもっと注目されてよい
    • 2022年のインフレ高騰を予測したシーゲルの成功を見よ*1
    • 複雑な金融システムの中で貨幣集計量の測定は難しく、また、最近では(少なくとも今回の高騰より前は)貨幣集計量はインフレを上手く予測していない、という批判はいずれも当たっている。しかしフィリップス曲線も予測の成績は同様に悪いが、人々はそれに注目し続けている。
    • 中銀は貨幣集計量について語るのをやめた、と指摘する人もいるが、おそらく彼らはもっと語るべきなのだろう。いずれにせよ、金融経済学者は中銀に範を求めるべきではない。それは、最適税制の研究者が連邦下院の歳入委員会の言辞に制約されるべきではないのと同様。
  6. 2%インフレ目標は2.0%インフレ目標よりも良い
    • インフレ目標を4%に引き上げてゼロ金利制約の束縛の頻度を下げよ、という議論もあるが、それについては自分は態度を決めかねているため、ここでは取り上げない。
    • それよりも、中銀は自らのインフレ制御の精度が低いことを認めるべき。彼らは恰も2.000%インフレを目標としているかのように語る時があるが、1.6%でも四捨五入で2%になるので、満足すべき。今のインフレとの戦いにおいては、2.5%にインフレが戻れば勝利宣言してよい。
    • あるいはFRBは、1-3%のようなレンジ目標に移行すべきかも。

コロナ禍後のインフレ高騰期における値引きとチープフレーション

というNBER論文が上がっているungated版)。原題は「Price Discounts and Cheapflation During the Post-Pandemic Inflation Surge」で、著者はAlberto Cavallo(ハーバード大)、Oleksiy Kryvtsov(カナダ銀行)。
以下はその要旨。

We study how within-store price variation changes with inflation, and whether households exploit it to attenuate the inflation burden. We use micro price data for food products sold by 91 large multi-channel retailers in ten countries between 2018 and 2024. Measuring unit prices within narrowly defined product categories, we analyze two key sources of variation in prices within a store: temporary price discounts and differences across similar products. Price changes associated with discounts grew at a much lower average rate than regular prices, helping to mitigate the inflation burden. By contrast, cheapflation—a faster rise in prices of cheaper goods relative to prices of more expensive varieties of the same good—exacerbated it. Using Canadian Homescan Panel Data, we estimate that spending on discounts reduced the change in the average unit price by 4.1 percentage points, but expenditure switching to cheaper brands raised it by 2.8 percentage points.
(拙訳)
我々は、店内の価格のバラツキがインフレでどのように変化したか、および、家計がそれを利用してインフレ負担を軽減したかどうか、を調べた。我々は、2018年から2024年までの10か国*1における複数の販売経路を持つ91の大手小売業者が販売する食料品のミクロの価格データを用いた。狭く定義された製品カテゴリにおける単価を測定して我々は、店内における価格のバラツキの2つの主要な原因を分析した。一時的な値引きと、類似の商品における差である。値引き関連の価格変化は、低下よりもかなり低い平均伸び率で伸び、インフレ負担を軽減するのに寄与した*2。一方、チープフレーション――同じ商品の高価格品よりも低価格品の方が価格上昇が大きいこと*3――は、インフレ負担を悪化させた。カナダのホームスキャンパネルデータ*4を用いて我々は、値引き品への支出が平均単価を4.1%ポイント低下させた半面、安価なブランドへの切り替えは平均単価を2.8%ポイント上昇させたと推計した。

*1:アルゼンチン、ブラジル、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、英国、米国。

*2:2020年1月から2024年1月まで、食品の通常価格は、欧米では15-23%、ブラジルとアルゼンチンではそれぞれ39%と228%上昇した一方で、セールス期間中の月次のインフレは、アルゼンチンを除き、合計しても一桁の伸びにしかならなかったとの由(アルゼンチンは17%)。

*3:2020年1月からの累積で6-14%ポイント高く、1.3-1.9倍になったとのこと。論文ではその原因として、安価な価格帯の品目では供給網がコストに主に反映されること(高価格品ではブランドや研究開発)、そもそもの売り手のマージンのバッファが少ないこと、高インフレ期には相対的に需要が多くなること、を挙げている。

*4:cf. Homescan Canada - NIQ

戦争にもかかわらず、ロシアとウクライナは所得分類で上方に移動した

と題したエントリ(原題は「Despite War, Russia and Ukraine move higher in Income classifications」)でMostly Economicsが、世銀による各国の所得水準の異動を報告した同行のブログエントリを紹介している。
以下は、所得水準(=一人当たりアトラスGNI)に基づく4分類(低所得国、低中所得国、高中所得国、高所得国[low, lower-middle, upper-middle, and high])において、2023年のデータに基づく2025年の分類に前年からの異動があった国を表した図。

この世銀のブログエントリの昨年分は邦訳されており、今年分の邦訳もいずれ出ると思われるので、以下では説明のポイントをピックアップしておく。

高中所得国から高所得国に移ったのは以下の3か国。

  • ブルガリア
    • コロナ禍後の回復で着実に成長し、閾値に近付いていった。2023年は消費需要に支えられて実質GDPは1.8%成長。
  • パラオ
    • やはりコロナ禍後の回復で着実に成長し、GDPが元の水準に戻った。
    • 実質GDPは0.4%増、GDPデフレーターで測ったインフレは8.1%増、名目GNIは10.0%増。
  • ロシア
    • 2023年に軍事関連活動が大きく増加したことが経済活動を押し上げたほか、貿易、金融、建設の各部門の反動増が成長を支えた(それぞれ6.8%、8.7%、6.6%増)。
    • 実質GDPは3.6%増、名目GDPは10.9%増、一人当たりアトラスGNIは11.2%増。

低中所得国から高中所得国に移ったのは以下の4か国。

  • アルジェリア
    • 国際基準に合わせた統計の包括的改定*1が主な要因。GDPの水準は2018-2022年に平均13.3%上方修正された。
      • 改定の例:研究開発を含めるようにした投資推計の拡張、公的部門の生産の測定手法の改善、観測できない経済のカバレッジの改善
    • 2023年は4.1%成長。
  • イラン
    • 2023年は5.0%成長。原油輸出が主導し、サービス業と製造業の利益が支えた。
    • GNIは名目で39.5%と大幅に伸びたが、イラン・リヤルの減価と組み合わせると一人当たりアトラスGNIは17.6%増となった。
  • モンゴル
    • コロナ禍後の回復を継続。2023年の実質GDPは7.0%増。
    • 鉱業と輸出が成長を支えた(それぞれ23.4%増、53.4%増)。輸出の大幅増は輸出価格の上昇による。
  • ウクライナ
    • 実質GDPは2022年に28.8%減少したが、2023年は5.3%成長した。復興のために投資支出が52.9%増えたことを反映して、建設活動が24.6%伸びた。
    • 人口がロシアによる侵攻後15%以上減少したことも寄与。
    • さらに、国内で生産する財とサービスの価格上昇もあり、一人当たりアトラスGNIは18.5%増加。

一方、唯一の下方修正国となったのは・・・

  • ヨルダン川西岸地区・ガザ
    • 紛争開始は2023年10月で、影響は第4四半期に限られたが、それでも名目GDPは9.2%、実質GDPは5.5%低下した。昨年に高中所得国に上がったばかりで、元々閾値に近いところに位置していたため、逆戻りした。

*1:日本では2015年度国民経済計算年次推計で対応した2008SNAへの対応かと思われる。

企業のダイナミズム低下の普遍性について

というNBER論文が上がっている。原題は「On the Ubiquity of Declining Business Dynamism」で、著者はDavid Hummels(パデュー大学)、Kan Yue(ザビエル大学)。
以下はその要旨。

Recent work documents declining business dynamism in the United States, with concerning implications for markups, innovation and productivity. Using import data for 146 countries over three decades we document a set of new stylized facts describing market dynamism world-wide. Market entry rates and the reallocation of market shares fall significantly over time. Young exporters experience rising prices, falling market shares, and increased exit probabilities relative to longer-tenured incumbents. While the variance of price shocks hitting markets is rising, long-tenured incumbents exhibit lower volatility in prices and the response of prices and quantities to tariff shocks are falling over time. These patterns hold for over 90 percent of countries and products suggesting the inadequacy of explanations that point to the macroeconomic or regulatory environment of particular countries or the unique industrial organization of particular products.
(拙訳)
最近の研究*1は、米国における企業のダイナミズムの低下を立証した。それはマークアップイノベーション、および生産性と関係する。30年以上に亘る146か国の輸入データを用いて我々は、世界全体の市場のダイナミズムを描写する一連の新たな定型化された事実を明らかにする。市場参入率と、市場シェアの再配分は、時間とともに顕著に低下した。企業年齢が若い輸出業者は、既存の操業年数の長い業者に比べて、価格の上昇、市場シェアの低下、退出確率の増加を経験した。市場を襲う価格ショックの分散が上昇している半面、既存の操業年数の長い業者の価格の分散はより低く、関税ショックに対する価格と数量の反応は時間とともに低下している。こうしたパターンは9割以上の国と商品について成立しており、特定の国のマクロ経済もしくは規制の状況、もしくは特定の商品の独自の産業構成による説明が不適切であることを示唆している。

ungated版は見当たらなかったが、各国の企業のデータを直接調べるという骨の折れる作業を避けて、米国の輸入、即ち他国の輸出のデータを用いて多数の国の輸出企業の動向を調べたというのは賢い手法かと思われる。日本でも企業のダイナミズム低下が叫ばれて久しいが、どの程度この全世界的な現象と通有性があるのか興味が持たれるところではある。