再配分のある最適金融政策

というNBER論文が上がっているungated版へのリンクがある著者の一人のページ今年4月のスライド)。原題は「Optimal Monetary Policy with Redistribution」で、著者はJennifer La'O(コロンビア大)、Wendy A. Morrison(ミネアポリス連銀)。
以下はその要旨。

We study optimal monetary policy in a general equilibrium economy with heterogeneous agents and nominal rigidities. Households differ in type-specific, state-contingent labor productivity and initial firm ownership, yet markets are complete. The fiscal authority has access to a linear tax schedule with non-state-contingent tax rates and uniform, lump-sum taxes (or transfers). We derive sufficient conditions under which implementing flexible-price allocations is optimal. We then show that when there are fluctuations in relative labor productivity across households, it is optimal for monetary policy to abandon the flexible-price benchmark and target a state-contingent markup. The optimal markup covaries positively with a sufficient statistic for labor income inequality. In a calibrated version of the model, countercyclical earnings inequality implies countercyclical optimal markups.
(拙訳)
不均一な主体と名目硬直性のある一般均衡経済における最適金融政策を我々は調べた。家計は、タイプ別かつ状態依存の労働生産性と当初の企業所有において差があるが、市場は完全である*1。財政当局は、非状態依存の税率と、均一な一括税(もしくは所得移転)を備えた線形の税スケジュールが使用できる*2。我々は、伸縮的な価格の配分の導入が最適となるような十分条件を導出した。次に我々は、各家計の相対的な労働生産性に変動がある時、伸縮的な価格のベンチマークは放棄して、状態依存のマークアップを目標とすることが金融政策にとって最適であることを示す。最適なマークアップは労働所得格差の十分統計量と正の共変動をする。カリブレートしたモデルでは、反景気循環的な所得格差は、反景気循環的な最適マークアップを含意する。

金融財政政策をどう役割分担させるか、という問題意識は前回エントリで紹介した論文と共通しているが、今回の論文は、所得格差の反景気循環的な性格から*3所得再配分は財政の役割、という通説に疑問を投げ掛け、金融政策が次善の選択肢になるのではないか、という仮説を立てている。
分析では、労働技能分布へのショックが比例的な場合は、金融政策は物価が伸縮的な場合の配分を再現すべきであり、それは物価安定目標によって達成できる、という結論が得られたという。これは税率が最適でない場合でも成立するとのことである。ただ、労働技能分布へのショックが比例的でない場合は結論は変わり、金融政策はマークアップを目標とすることが最適になる。というのは、労働所得の格差が広がった時には税率を高めるのを再現するような金融政策が最適となり、それはマークアップを高めることだから、とのことである。

*1:本文では「Households are assigned a “type” at birth and remain that type throughout their lifetime. Types map to heterogeneous labor productivities and initial (time-0) firm ownership. Type-specific labor productivities are state-contingent. We allow these contingencies to be fully general—they can therefore nest any exogenous labor income process. We assume that markets are complete: in every period, households can trade a complete set of Arrow securities in addition to a nominal bond and firm equity.」と説明している。

*2:本文では「One can think of this lack of fiscal state-contingency as a political constraint: the fiscal authority cannot change tax rates at business cycle frequency. Furthermore, and in contrast to the typical restriction in the Ramsey literature, we allow for state contingent, lump-sum taxes or transfers as in Werning (2007). That is, while the fiscal authority cannot alter the slope of the tax schedule in response to shocks, it can freely adjust the intercept.」と説明している(Werning (2007)はこれ)。

*3:本文では「One prominent feature of the data is the unequal exposure of household earnings to the business cycle: the labor earnings of low-income households exhibit a greater covariance with aggregate fluctuations than those of mid- and high-income households. This heterogeneity in the covariance of individual earnings with aggregate fluctuations contributes to countercyclical earnings inequality. 」と説明している。

部門別経済における最適な金融財政政策

というNBER論文が上がっているungated版)。原題は「Optimal Monetary and Fiscal Policies in Disaggregated Economies」で、著者はLydia Cox(ウィスコンシン大学マディソン校)、Jiacheng Feng(ジェーン・ストリート・キャピタル)、Gernot Müller(テュービンゲン大)、Ernesto Pastén(チリ中央銀行)、Raphael Schoenle(ブランダイス大)、Michael Weber(シカゴ大)。
以下はその要旨。

The jointly optimal monetary and fiscal policy mix in a multi-sector New Keynesian model with sectoral government spending and productivity shocks entails a separation of roles: Sectoral government spending optimally adjusts to sectoral output gaps and inflation rates---a policy supported by evidence from sectoral federal procurement data. Monetary policy optimally focuses on aggregate stabilization, but deviates from a zero-inflation target; in a model calibration to the U.S., however, it effectively approximates a zero-inflation target. Because monetary policy is a blunt instrument and government spending trades off stabilization against the optimal-level public good provision, the first best is not achieved.
(拙訳)
部門別の政府支出と生産性ショックのある多部門ニューケインジアンモデルでの最適な金融財政政策の組み合わせは、役割分担をもたらす。即ち、部門別政府支出は部門別生産ギャップとインフレ率を最適化するよう調整する。これは、連邦の部門別調達データの実証結果で裏付けされた政策である。金融政策は、マクロの安定を最適化することに注力するが、ゼロインフレ目標からは逸脱する。ただ、モデルを米国についてカリブレーションを行うと、事実上ゼロインフレ目標を近似する。金融政策はなまくらなツールであり、政府支出には安定と公共財供給の最適水準とのトレードオフがあるため、最善の状態は達成されない。


本文によると、仮に生産性ショックが全部門で完全に相関し、同じように伝播するならば、ゼロインフレ政策は生産ギャップを閉じることによって最善の状態を達成する(「聖なる一致(divine coincidence)」)。しかしその条件が満たされないと、金融政策はあまりになまくらなツールとなり、ショックによって効率的な水準からの逸脱が大きくなる部門へのウエイトを大きくする次善のインフレ指数を目標とせざるを得なくなる。この政策はマクロの生産ギャップを閉じるものの、インフレの変動と部門別生産は次善なものとなる。
ここで、部門別の微調整ができる財政政策を考慮すると、マクロの安定は金融政策、部門別調整は財政政策、という役割分担が最適、という結果が導かれる。ただし、正の生産性ショックを経験する部門については、最適ルールに基づく政府需要は、最善の場合よりも拡張的なものとなる。また、金融政策はゼロインフレ目標から外れることになるが、金融政策が唯一の安定化ツールである場合と比べたその逸脱の大きさは、定量的に小さなものに留まる。
論文ではさらに、部門別フィリップス曲線を統合した場合、マクロのコストプッシュショックのような余分な項が現れるが*1、これはゼロインフレ目標の金融政策の下では、最適ルール下におけるよりも6倍くらい変動が大きくなる、という結果を示している。従って、政府が最適な部門別財政政策に従った場合、ゼロインフレ目標政策が最適金融政策とほぼ同様の結果を出すとしても、マクロのコストプッシュショックの変動が大きくなるという問題を抱えることになる。
論文ではまた、マクロの政府需要の小幅な循環性は、財政政策が安定化の役割を演じることと矛盾しない(=部門レベルで安定化の役割を演じているので)、ということも示している。

エクイティプレミアムではなく利回りの変動:バーナンキ=カトナー再訪

というNBER論文が上がっているungated版)。原題は「Movements in Yields, not the Equity Premium: Bernanke-Kuttner Redux」で、著者はStefan Nagel(シカゴ大)、Zhengyang Xu(香港城市大)。
以下はその要旨。

We show that the stock market price reaction to monetary policy surprises upon announcements of the Federal Open Market Committee (FOMC) is explained mostly by changes in the default-free term structure of yields, not by changes in the equity premium. We reach this conclusion based on a new model-free method that uses dividend futures prices to obtain the counterfactual stock market index price change that results purely from the change in the default-free yield curve induced by the monetary policy surprise. The yield curve change in turn partly reflects a change in expected future short-term interest rates, as measured by changes in professional forecasts, and partly a change in the term premium. We further find that the even/odd week FOMC cycle in stock index returns is also largely due to an FOMC cycle in the yield curve rather than the equity premium.
(拙訳)
連邦公開市場委員会FOMC)声明が出された時の金融政策サプライズへの株式市場の株価の反応は、エクイティプレミアムの変化ではなく、債務不履行の無い金利の期間構造の変化によって概ね説明できることを我々は示す。金融政策サプライズにより引き起こされた債務不履行の無い金利の利回り曲線の変化だけによって生じる反実仮想的な株式市場指数の価格変化を配当先物価格を用いて得るという、モデルに依らない新たな手法に基づき、我々はこの結論に達した。利回り曲線の変化は、専門家予測の変化で計測される将来の予想短期金利の変化を部分的に反映するとともに、期間プレミアムの変化も部分的に反映する。我々はまた、株価指数リターンの偶奇数週のFOMCサイクルも、エクイティプレミアムではなく利回り曲線のFOMCサイクルが主因であることを見い出した。

タイトルのバーナンキ=カトナーは Bernanke and Kuttner (2005) *1を指す。この論文では、株価は主にエクイティプレミアムの変化によってFRBの声明に反応することが示されたが、今回の論文では、当時利用可能でなかった配当先物価格というデータを用いて、その結論を引っ繰り返したとの由。

株式リターンの偶奇数週のFOMCサイクルというのは Cieslak et al. (2019) *2で報告されている事象で、同論文のWPから該当の図を引用すると以下のようになる。

即ちFOMCを起点として数えた偶数の週にリターンが高まり、奇数の週にリターンが低くなる事象が観測されるという。
今回の論文でも以下のようにその図を再現し、利回り曲線の変化で説明できる、としている(パネルAは配当先物が利用できる期間での確認、パネルBはより長い期間での配当先物を使わない手法(キャンベル=シラーの現在価値法*3)での確認)。

高頻度ナラティブ手法

という手法(原語は「high frequency narrative approach」)で財政赤字のインフレへの影響を計測した論文をタイラー・コーエンが紹介している。論文のタイトルは「Do Deficits Cause Inflation? A High Frequency Narrative Approach」で、著者は Jonathon Hazell(LSE)、Stepan Hobler(同)。
以下は本文の導入部に記されたその計測手順の概要。

  • 第一段階のナラティブ過程においては、財政赤字に関するニュースをもたらしたイベントを識別。ここではイベントとして2021年初めのジョージア州上院決戦投票*1を用いた。
    • 2020年11月に民主党は大統領選に勝利し、上院で48議席を獲得した。しかしジョージア州の2議席は2021年1月5日の決選投票で決まることになった。もし民主党が両議席を獲得すれば、財政刺激策を実行できる多数派となる。
      • 上院の手続きでは、財政法案のみ単純な多数派で通すことができる。財政以外の法案は60票の大多数が必要で、これは決選投票の結果如何にかかわらず獲得できないことが判明していた。
    • 1月7日に、民主党が両議席を獲得したことが明らかとなった。その後、2021年3月に民主党は、1.9兆ドル(GDPの8.8%)の財政赤字による財政刺激策を通した。これは、2020年12月に通過した9000億ドル(GDPの4.2%)への追加となり、2020年末から2021年初めに掛けて合計でGDPの13%の刺激策が成立したことになる。それから間もなくインフレが上昇し始めた。
    • 次に、民主党勝利に起因する財政赤字に関するニュースのサイズを測定した。
      • 問題は、共和党勝利の想定も含め、選挙前にどれだけの財政赤字支出が予想されていたか、を決めること。ここでは20の投資銀行やマクロ経済研究所のレポートを収集して構築したデータセットを用いた。
        • 投資銀行は市場を動かすイベントの前後にタイムススタンプ付きのレポートを広く配布しており、その中で様々なシナリオの定量的情報を記述している。
      • それらのレポートを用いてジョージア州の決選投票の財政赤字のニュースを計測したところ、平均的な投資銀行は50%の確率で民主党が両議席を獲得すると予想しており、勝利の暁には9000億ドルの財政刺激策を支出すると予想していた。共和党が1議席でも獲得していたら、財政刺激策は無いと予想されていた。従って民主党の勝利は4500億ドル(GDPの2.1%)の財政赤字予想のショックだったことになる。うち7割は「stimulus checks」のような移転支出になると予想されていた。
  • 第二段階の高頻度過程においては、スワップ取引のインフレ予想を用いた(Cieslak & Pflueger 2023*2)。
    • その際、2つの識別手法を用いた。第一の手法は決選投票前後の期間におけるインフレスワップを調べた単一のイベントスタディである。
      • その期間内に原油価格ショックなどインフレに影響する他のショックに関するニュースは起きなければ、除外変数バイアスに影響されない。
        • 問題は1月6日の議会乱入事件だが、以下の4つの理由によって問題無いと考えられる。
          1. 乱入を除いた期間でも同様の結果が得られた。
          2. ナラティブの証拠は、乱入事件が資産価格の主要な決定要因では無かったことを示している。
          3. 実体経済の強い成長予想は、乱入事件が大きな影響を与えたことと矛盾する。
          4. 米政治リスクの代理変数であるクレジット・デフォルト・スワップは安定していた。
      • 民主党の勝利は、予想物価が2年で0.38%上昇することにつながる(標準誤差は0.05%)、と推計された。ショックは永続的な効果があると予想され、10年で累積して0.77%の予想物価の上昇につながる(標準誤差は0.18%)、と推計された。
      • 配当先物は力強い実質GDP成長率予想を示し(Gormsen & Koijen 2020*3)、投資銀行は成長予想を大きく上方修正したため、ショックは需要を増加させたと考えられた。
    • イベントスタディには単一の強力な観測に頼る、という欠点があるため、第二の手法として、操作変数法を用いた。
      • 11月の大統領選挙と1月の決選投票の間に民主党勝利の確率が大きく変化し、市場はそれに注目した。ということで、賭け市場における民主党勝利確率の日次確率を財政赤字ニュースの操作変数として用いた。この手法でも第一の手法と同様の推計結果が得られたが、ただし4割ほど大きかった。
    • 高頻度手法では、スワップ取引から得られるインフレ予想が真のインフレについての偏りが無い予想であることを仮定している。
      • これは、過去の研究と同様(例:Nakamura & Steinsson 2018*4
      • 実際には、この期間のインフレ予想は、やや過小反応しつつも実際のインフレと共変動した。これは過去データにおける予想も同様(Coibion & Gorodnichenko 2015*5)。従って、スワップから得られた高頻度の反応は、実際のインフレ変化の保守的な推計になっている。
  • 最後に、ナラティブと高頻度の結果を組み合わせて、2021年の財政赤字がインフレに与えた因果効果を計算した。
    • 推計結果は、高頻度の反応をショックのナラティブの計測値で割った「インフレ乗数」に集約される。インフレ乗数は、GDPの1%の財政赤字ショックに対して、2年で0.18%の物価水準の上昇(10年では0.37%)、となった*6
    • 財政刺激策の効果は、インフレ乗数と、2021年のGDPの13%の財政赤字との積になる。即ち、2021-22年に2.3%の物価上昇をもたらしたことになる。これは2021-22年の総合インフレの3割程度に相当する*7
    • 結論として、2021年の財政赤字はコロナ禍後のインフレの重要な要因ではあったが、唯一の要因ではなかった。
      • この推計では2020年4月のCARES法(コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法)を考慮していない。同法案は2.2兆ドル(GDPの10%)だった。もし同じインフレ乗数を適用できるとしたら、CARES法は物価を2年間にさらに1.8%押し上げたことになる。
      • 今回の発見はBarro & Bianchi (2023) *8 のような他の研究と整合的である。ただ、原油価格のような他のインフレショックもおそらく重要であっただろうことを示唆している(Gagliardone & Gertler 2023*9)。

論文ではこのほか、標準的なHANKモデルでインフレ乗数を定量的に再現できるかどうかを調べ、再現できるという結果を得ている。

*1:cf. 米ジョージア州上院決選投票の注目ポイント | 三井住友DSアセットマネジメント

*2:Inflation and Asset Returns | Annual Reviews

*3:Coronavirus: Impact on Stock Prices and Growth Expectations | The Review of Asset Pricing Studies | Oxford Academic

*4:High-Frequency Identification of Monetary Non-Neutrality: The Information Effect* | The Quarterly Journal of Economics | Oxford Academicコピー

*5:Information Rigidity and the Expectations Formation Process: A Simple Framework and New Facts - American Economic Association

*6:0.38/2.1=0.18、0.77/2.1=0.37。

*7:コーエンのエントリのコメント欄で、この3割という数字の根拠が良く分からん、とスコット・サムナーがコメントしたのに対し、論文の著者の一人であるJonathon Hazellが降臨し、2.3%は2021-22年の超過インフレの3割に相当する、と返している。また併せて、この件では金融政策が鍵になっており、この期間の金融政策が緩和的なままだったことが財政赤字に対するインフレの反応が高くなった一つの要因だった、とも述べている(この追記は市場マネタリストのサムナーに配慮したものかもしれない。コメントの冒頭では、昔から大ファンで、10代終わりに経済学の道に進んだきっかけになった、とも書いている)。

*8:cf. 2020-2022年のOECD諸国におけるインフレへの財政の影響 - himaginary’s diary

*9:cf. 原油価格、金融政策、およびインフレ高騰 - himaginary’s diary

産業革命期のイノベーションネットワーク

というNBER論文が上がっている(H/T Mostly Economicsungated版)。原題は「Innovation Networks in the Industrial Revolution」で、著者はLukas Rosenberger(ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン)、W. Walker Hanlon(ノースウエスタン大)、Carl Hallmann(同)。
以下はその要旨。

How did Britain sustain faster rates of economic growth than comparable European countries, such as France, during the Industrial Revolution? We argue that Britain possessed an important but underappreciated innovation advantage: British inventors worked in technologies that were more central within the innovation network. We offer a new approach for measuring the innovation network using patent data from Britain and France in the late-18th and early-19th century. We show that the network influenced innovation outcomes and demonstrate that British inventors worked in more central technologies within the innovation network than French inventors. Drawing on recently developed theoretical tools, and using a novel estimation strategy, we quantify the implications for technology growth rates in Britain compared to France. Our results indicate that the shape of the innovation network, and the location of British inventors within it, explains an important share of the more rapid technological change and industrial growth in Britain during the Industrial Revolution.
(拙訳)
英国は産業革命期にどのようにしてフランスのような比較可能な欧州諸国よりも高い経済成長率を維持したのか? 我々は、英国には重要だが過小評価されてきたイノベーションの利点があったと論じる。英国の発明家は、イノベーションのネットワークの中でより中心的な技術において仕事をしていたのである。我々は、18世紀終わりから19世紀初めに掛けての英仏の特許データを用いて、イノベーションネットワークを測定する新たな手法を提示する。そのネットワークがイノベーションの結果に影響したことを我々は示し、英国の発明家がフランスの発明家よりもイノベーションのネットワークの中でより中心的な技術において仕事をしていたことを明らかにする。最近開発された理論ツールと新たな推計手法を用いて我々は、フランスと比べた英国の技術進歩率にとってのその意味合いを定量化した。我々の推計結果は、イノベーションネットワークの形状とその中の英国の発明家の占める位置が、産業革命期における英国のより急速な技術進歩と産業の成長の重要な割合を説明することを示している。

以下は結論部の冒頭。

Did it matter that in the early decades of the Industrial Revolution many British inventors worked in technology types, such as steam engines or textile machinery, rather than technologies such as papermaking or chemicals? We argue that the answer is that, yes, it mattered.
(拙訳)
産業革命の初期の数十年に、多くの英国の発明家が、製紙や薬品といった技術ではなく、蒸気機関や繊維機械といったタイプの技術で仕事をしたことは重要だったのだろうか? その答えは、そうだ、それは重要だった、と我々は主張する。

以下は結論部の末尾。

In addition to helping us better understand the nature Britain’s advantages during the early decades of the Industrial Revolution, our findings may also shed light on why these advantages slipped away in the late-nineteenth and early-twentieth centuries. It seems likely that the structure of the innovation network was slowly evolving over the nineteenth century, with the rising importance of chemical and electrical technologies that characterized the Second Industrial Revolution. This change in the technology space away from the mechanical technologies may help explain why Britain found it increasingly difficult to maintain its position as industrial leader. One interesting direction for future work is assessing the extent to which slow-moving changes in the underlying innovation network may have undermined Britain’s advantages and contributed to the erosion of British leadership in the late nineteenth and early twentieth century.
(拙訳)
産業革命の初期の数十年における英国の利点の性質をより良く理解する助けとなることに加えて、我々の発見は、なぜそうした利点が19世紀終わりから20世紀初めに掛けて消えていったかについても解明の光を投じるかもしれない。イノベーションネットワークの構造が19世紀にゆっくりと進化し、第二産業革命の特徴となった化学と電気の技術が重要性を増した可能性は高いように思われる。機械技術から離れていった技術空間におけるこの変化が、産業のリーダーとしての地位を英国が維持するのが難しくなった理由を説明する助けとなるかもしれない。今後の研究の一つの興味深い方向は、基底にあるイノベーションネットワークのゆっくりとした変化がどの程度英国の利点を崩し、19世紀終わりから20世紀初めに掛けての英国のリーダーシップの低落に寄与したかを推計することである。

グローバル投資家にとってどの為替相場が問題となるのか?

というBIS論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「Which Exchange Rate Matters to Global Investors?」で、著者はKristy Jansen(南カリフォルニア大)、Hyun Song Shin(BIS)、Goetz von Peter(同)。
以下はその要旨。

How do exchange rates affect the asset allocation of bond portfolio investors? Using detailed security-level holdings, we find that euro area-based investors systematically shed sovereign bonds as the dollar strengthens, confirming the role of the dollar as a global risk factor even for euro-based investors. More distinctively, they also shed local currency bonds when the euro strengthens, due to currency mismatches on their own balance sheets. There is no such effect for foreign currency bonds of the same sovereign issuers. These findings are consistent with a Value-at-Risk portfolio choice model that brings out separate roles for local, foreign and reference currencies.
(拙訳)
債券ポートフォリオ投資家の資産配分に為替相場はどのように影響するのだろうか? 詳細な証券レベルの保有データを用いて我々は、ユーロ圏の投資家はドルが強くなるとソブリン債を体系的に削減することを見い出した。これは、ユーロをベースとする投資家にとってさえドルがグローバルリスクファクターとしての役割を果たすことを確認するものである。より特徴的なのは、彼らはユーロが強くなると、自分のバランスシート上の通貨ミスマッチにより、現地通貨建て債券も削減する。同じソブリン債発行者の外貨建て債券についてはそのような影響は無い。以上の発見は、現地通貨、外貨、および基準通貨に別々の役割を担わせるバリューアットリスクのポートフォリオ選択モデルと整合的である。

ここでユーロを基準通貨とする投資家を対象としたのは、国際金融と貿易におけるドルの支配的な役割から生じる効果と分離して通貨の影響を識別するため、との由。
新興国の通貨が対ユーロで減価した場合、外貨建て債券の信用リスクが上昇する半面、現地通貨建て債券には影響しないはずだが、投資家は主に現地通貨建て債券の方を売却する。これは、彼らが発行国の通貨ではなく、自分が保有する債券の通貨を重視し、自分のバランスシート上の基準通貨ベースのミスマッチを気にしていることを示している、とのことである。

1907年のニューヨークの銀行恐慌の国際的な波及についての実証結果

というスイス国立銀行論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「Evidence on the international financial spillovers of the New York Bankers' Panic of 1907」で、著者は同行のThomas Nitschka。
以下はその要旨。

Using a unique dataset of daily returns on all Swiss stocks traded on the Zurich exchange, I use event study methods to show that the New York Bankers' Panic of 1907 affected foreign stock markets earlier than previous studies of the international spillovers of this crisis suggest. Moreover, the spillovers were confined to banks' stocks and did not significantly influence returns on Swiss firms' stocks from other sectors. Key events, such as the news about the bankruptcy of the Knickerbocker Trust or announcements of the Bank of England, coincided with significant abnormal daily returns on Swiss banks' stocks.
(拙訳)
チューリッヒ取引所で取引されている全スイス株式の日次リターンという独自のデータセットを用いて私は、1907年のニューヨークの銀行恐慌*1が、危機の国際的な波及に関する従来の研究が示唆するよりも早く海外株式市場に影響したことをイベントスタディの手法を用いて示す。また、波及は銀行株に限られ、他部門のスイス企業の株式のリターンには有意に影響しなかった。ニッカーボッカー信託会社の破綻に関するニュースやイングランド銀行の声明といった主要なイベントは、スイス銀行株の有意に異常な日次リターンと符合していた。

本文では、今回の研究で見い出された波及パターンは昨年のシリコンバレー銀破綻というより直近の事例にも当てはまる、としている。