2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

フィフス・エレメント

貨幣の三大機能と言えば、Wikipediaにあるように、価値尺度(unit of account)、流通手段(medium of exchange)、価値貯蔵(store of value)の3つである。そのほか、繰延支払の標準(standard of deferred payment)を第四の機能としてカウントすることも…

石油ショックと金融政策の期待経路の確立

以前、70〜80年代の高インフレとそれへの対応は金融政策の期待という経路の限界を示すものだった、というロバート・ワルドマンの主張を紹介したが、22日や昨日のエントリで紹介したイエレン講演では、むしろその経験によって期待という経路が確立された、と…

FRBが長期の「インフレ目標」を2%に設定したわけ

昨日のエントリに対し 「通貨・国債・政府の信用を人為的に下降させたインフレが経済成長を約束させるのか」の反論になっていない。高成長期のインフレと同一視して良いのか。 誰も紙幣を使わない社会にも、国債の残高が限りなく小さな社会にも、好景気は存…

国債バブルと貨幣バブル

24日エントリに対し、「信用を失う国債を抱えることでインフレーションが起きたとしても、それは好景気を意味しない」というはてぶコメントを頂いた。しかし、そこで見落とされているのは、そもそもインフレーションというものが、いかなる形であれ、貨幣と…

保守派は組合を支持すべし

昨日のエントリでは、クリス・ディロー(Chris Dillow)が、コース的な企業をもたらす四条件のうち福祉給付に拒絶反応を示す資本主義者を皮肉ったことを紹介したが、それに対し、彼が強力な組合についてスルーしたのはなぜか、という趣旨のはてぶコメントを…

マルクス対コース:ある実証結果

雇用契約の実験を行ったエルンスト・フェール(Ernst Fehr)*1らの研究を、クリス・ディロー(Chris Dillow)が取り上げ、それをEconomist's Viewが紹介している。 以下はその概要。 フェールらの研究における一回限りの雇用契約の実験では、51%のプリンシパ…

中銀の独立性と財政規律とティンバーゲンの定理

今日は最近の日銀の独立性を巡る議論を巡ってふと思いついたことをメモ的に書き留めておく。素人の思いつきなので、あくまでもそのつもりで読んでいただければ幸甚。 日銀の独立性を崩すことには、以下の2つの功罪がある。 財政ファイナンスを利用してデフレ…

日系人の強制収容が教えてくれたこと

“世界最強の経済学者”Lauren Cohenら3人の研究者が、「影響の経路(Channels of Influence)」という論文を書き、それを「ウォール街が国際貿易について分かっていないこと(What Wall Street Doesn't Understand About International Trade)」と題したハー…

イエレンはフィリップス曲線を用いた政策を目指しているのか?

Stephen Williamsonが、バーナンキの後継者に擬せられるジャネット・イエレンの考えを、彼女の最近の講演を基に批判している。その批判のエッセンスは、ブログの本文よりむしろコメントでの応答にまとめられているので、以下にそれを引用してみる。 Yellen's…

時間軸政策パズル

昨日に続き、NEP DGE論文リストRSSから拾った時間軸政策絡みの論文を紹介する。今日紹介するのはNY連銀の今年10月付けのスタッフレポート「The Forward Guidance Puzzle」で、書いたのはMarco Del Negro、Marc Giannoni、Christina Patterson。 以下はその要…

オデッセウス型時間軸政策とデルフォイ型時間軸政策

チャールズ・エバンス総裁をはじめとするシカゴ連銀の4人の研究者が、今年の3月に「Macroeconomic Effects of Federal Reserve Forward Guidance」という論文を書き、表題の2つの時間軸政策について論じてる(H/T NEP DGE論文リストRSS;Economist's Viewも3…

少子高齢化の下での賦課方式

一昨日、年金の完全積立方式より修正賦課方式が好ましい、という論文を紹介したが、その論文は人口一定を仮定していた*1。同論文が掲示されていたNEP DGEの論文リストを見ると、「少子化の枢軸」の日本の“同盟国”であるイタリアはピサ大学のLuciano Fantiと…

中原伸之化していたスヴェンソン

リクスバンク副総裁のラース・スヴェンソンが、11/14の講演において、同銀行の理事会における自分の立場を率直に説明している(サムナーブログのコメント経由のラース・クリステンセン[Lars Christensen]経由)。 以下はその冒頭部。 It can scarcely have…

年金は完全積立方式より修正賦課方式の方が良い

という結果をベルギーのゲント大学SHERPPA(Study Hive for Economic Research and Public Policy Analysis)の学者(Tim Buyse, Freddy Heylen and Renaat Van de Kerckhove)が「Pension reform in an OLG model with heterogeneous abilities」と題された…

シェリングがコンピュータ・シミュレーションを嫌った理由

について書かれたJournal of Artificial Societies and Social Simulation(JASSS)の小論をタイラー・コーエンがリンクしている。以下はその要旨。 Today the Schelling model is a standard component in introductory courses to agent-based modelling a…

地獄に堕ちた勇者ども

開発独裁を支持する人々をモデル化した論文をEconomic Logicが少し前に紹介している。以下は同論文の結論部。 In this paper we show that different societal groups may support a rent-seeking dictator serving their interests better than the median …

中国がアセモグル=ロビンソン理論を打破するとき

ピーターソン国際経済研究所のシニア・フェローであるアーヴィンド・スブラマニアン(Arvind Subramanian)が、The American Interestの記事で以下の図を示し、中国が非民主主義的な割に経済発展の程度が高く、インドが民主主義的な割に経済発展の程度が低い…

ABMなんか嫌いだ

エージェントベースモデル(ABM*1)の使用を主唱した論文に、Economic Logicのブログ主がぶち切れている。 まず、DSGEモデルの失敗が明らかになったのだから捨て去るべし、という主張に対し、うまくいかなかったから全部破棄、ではなく、改善の方向で考える…

マクロ経済政策に期待や予測なんか要らない

Economist's ViewのMark Thomaが、このエントリでStephen Williamsonのコチャラコタ批判を揶揄する一方で、こちらのエントリではその流動性の罠に関する考察を称賛している(後者のリンク先のWilliamsonエントリはこちらで邦訳されている)。 ただ、その2つ…

学習しない英国人?

昨日までの一連のエントリで紹介したサージェントインタビューでは学習理論が主なトピックの一つとなっていたが、インタビュアーの一人であるジョージ・エバンス(George Evans)が、最近イタリア国家統計局(Italian National Institute of Statistics=IST…

トムとニール、仲良く喧嘩しな

サージェントインタビューの最後は、ミネソタ大学の学問的雰囲気と教授陣や卒業生の錚々たる面々に関する話題で締め括られている。その一端はここで紹介したWilliamsonブログでのプレスコットのコメントから伺えるが、そのプレスコットをミネソタ大に引っ張…

ハリ・サージェントになりたくて

昨日までサージェントインタビューから数学的な理論に纏わる話を紹介してきたが、今日はサージェントの経済史家としての側面に焦点を当てた部分を紹介する。 Evans and Honkapohja: Your papers on monetary history look very different than your other wo…

ロバスト制御理論とカリブレーション

サージェントインタビューでロバスト制御理論の研究について語った部分の締め括り。 Evans and Honkapohja: Parts of your description of robustness remind us of calibration. Are there connections? Sargent: I believe there are, but they are yet to…

ロバスト制御理論と学習理論

サージェントインタビューでロバスト制御理論の研究について語った部分の続き。 Evans and Honkapohja: What are some of the connections to learning theory? Sargent: There are extensive mathematical connections through the theory of large deviati…

ロバスト制御理論と合理的期待理論

今度はサージェントインタビューから、ロバスト制御理論の研究について語った部分を引用してみる。 Evans and Honkapohja: You work with Hansen and others on robust control theory. How is that work related to your work on rational expectations and…

A prophecy that misread could have been...

今日はサージェントインタビューの学習に関する話の締め括り。 Evans and Honkapohja: What else has learning theory contributed? Sargent: A couple of important things. First, it contains some results about rates of convergence to a rational exp…

モデル共産主義の崩壊

今日もサージェントインタビューの学習に関する話の続き。今回の引用部では、11/1エントリで触れたモデル版「共産主義の崩壊」について語られている。 Evans and Honkapohja: Are stability results that dispose of some rational expectations equilibria,…

生き残る合理的期待均衡、死ぬ合理的期待均衡

サージェントインタビューの学習に関する話の続き。 ○定式化をわざと間違えた主体の学習で出てくる均衡もどきと、本来の均衡との違いについて Evans and Honkapohja: How different are these equilibria with subtly misspecified expectations from ration…

合理的期待均衡の・ようなもの

引き続きサージェントインタビューから、今度はインタビュアーの本領である学習についてのやり取りを引用してみる。 Evans and Honkapohja: Why did you get interested in nonrational learning theories in macroeconomics? Sargent: Initially, to streng…

サージェント「ルーカス批判は方程式間の制約に尽きる」

ここ数日のブログネタにしているサージェントインタビューから、今日は合理的期待について述べた部分を引用してみる。 Evans and Honkapohja: Econometrically, what was the big deal about rational expectations? Sargent: Cross-equation restrictions a…