数百の経済ニュースイベントが株式市場における考えの過剰反応について伝えること

というNBER論文が上がっているungated版へのリンクがある著者の一人のサイト)。原題は「What Hundreds of Economic News Events Say About Belief Overreaction in the Stock Market」で、著者はFrancesco Bianchi(ジョンズホプキンズ大)、Sydney C. Ludvigson(NYU)、Sai Ma(FRB*1
以下はその要旨。

We measure the nature and severity of a variety of belief distortions in market reactions to hundreds of economic news events using a new methodology that synthesizes estimation of a structural asset pricing model with algorithmic machine learning to quantify bias. We estimate that investors systematically overreact to perceptions about multiple fundamental shocks in a macro-dynamic system, generating asymmetric compositional effects when several counteracting shocks occur simultaneously in real-world events. We show that belief overreaction to all shocks can lead the market to over- or underreact to events, amplifying or dampening volatility.
(拙訳)
我々は、構造的資産価格モデルの推計をアルゴリズム機械学習と統合する新たな手法を用いてバイアスを定量化し、数百の経済ニュースイベントへの市場の反応における様々な考えの歪みの性質と深刻さを測定した。投資家は、マクロ動学システムにおいて複数のファンダメンタルなショックに関する認識に体系的に過剰反応し、実世界で幾つかの相反するショックが同時に生じるとその過剰反応から非対称的な構成効果が生み出されることを我々は推計した。すべてのショックに対する考えの過剰反応は、市場の過剰もしくは過小反応につながり、変動性を増幅もしくは縮小し得ることを我々は示す。

従来の株式市場の過剰反応に関する分析は、アナリストや投資家の予測誤差を予測修正に回帰することが多かったが、そのやり方では、正確にどのニュースイベントに投資家の考えが過剰反応したかが特定できない。実際、株価の変動をもたらす株式市場の資金の出入りは、企業のキャッシュフロー成長とは無関係であることが報告されている。そこで今回の分析では、「構造的AI総合(structural AI synthesis)」と著者たちが呼ぶ手法で以下のように分析を行ったという。

  1. 特定のニュースイベントへの株式市場の反応を測定
  2. そのイベントの結果として生じる、代表的投資家の主観的予想の修正と、その投資家がリスクの源泉と受け止めているものの修正を推計
  3. 市場のニュースへの反応を動かす上での考えの歪みの定量的重要性を測定

その結果は、無関心(inattention)モデルよりも診断的予想(diagnostic expectations*2)モデルに沿うものだったという。ただし従来の利益ないし配当の単変数の診断的予想モデルからは過剰反応による市場変動性の増幅しか出てこないが、経済の動学に関する認識についての複数変数の診断的予想モデルとしたことにより、ショック同士が打ち消しあう効果によって過小反応も導出できたとの由。