コンビニエンスイールドと為替相場のパズル

というNBER論文が上がっているungated(SSRN)版へのリンク)。原題は「Convenience Yields and Exchange Rate Puzzles」で、著者はZhengyang Jiang(ノースウエスタン大)、Arvind Krishnamurthy(スタンフォード大)、Hanno Lustig(同)、Jialu Sun(ノースウエスタン大)。
以下はその要旨。

We introduce safe asset demand for dollar-denominated bonds into a tractable incomplete-market model of exchange rates. The convenience yield on dollar bonds enters as a stochastic wedge in the Euler equations for exchange rate determination. This wedge reduces the pass-through from marginal utility shocks to exchange rate movements, resolving the exchange rate volatility puzzle. The wedge also exposes the dollar's exchange rate to convenience yield shocks, giving rise to exchange rate disconnect from macro fundamentals and a quantitatively important driver of currency risk premium. This endogenous exposure identifies a novel safe-asset-demand channel by which the Fed's QE impacts the dollar and long-term U.S. Treasury bond yields.
(拙訳)
我々はドル建て債券に対する安全資産需要を、解析可能な為替相場の不完全市場モデルに織り込む。ドル債のコンビニエンスイールドが、為替相場決定のオイラー方程式に確率的ウェッジとして入る。このウェッジにより限界効用ショックの為替相場変動への転嫁が減じられ、為替相場ボラティリティパズルが解決される。また、このウェッジにより、ドルの為替相場はコンビニエンスイールドのショックから影響を受けるようなり、為替相場とマクロのファンダメンタルズとの分断がもたらされ、為替リスクプレミアムの定量的に重要な要因となる。この内生的なエクスポージャーは、FRB量的緩和がドルと米長期債利回りに影響する新たな安全資産需要経路を明らかにする。

導入部によると、何が為替を動かすのか? - himaginary’s diaryで紹介した研究*1のように、オイラー方程式に何らかのウェッジが入り込むことが為替相場のパズルを解くカギになることが最近の研究により明らかになったが、ここではコンビニエンスイールドをそのウェッジとして用いたという。コンビニエンスイールドは国債市場におけるカバー付き金利平価(CIP)からの乖離として測定したとの由。コンビニエンスイールドに焦点を当てたのは、ドル相場の動きが、海外投資家が安全な米ドル債に帰するコンビニエンス(安全性や流動性)サービスと結び付いているという強力な実証結果が出ているため、とのことである。
4つのオイラー方程式(2国モデルにおける各国投資家の各国債券への需要を定式化したもの)からなるモデルで解いたところ、以下の4つの主要な発見が得られたという。

  • 為替相場ボラティリティパズルの解決
    • 完全市場モデルにはないコンビニエンスイールドがショックアブソーバーとなってボラティリティがデータに合うようになった
  • 為替相場とマクロ経済の分断の解決
    • コンビニエンスイールドによるドルの増価が、標準的な完全市場の経路(海外不況時の海外投資家の限界効用の高まりによる外貨の増価)と逆方向に働く
  • カバー無し金利平価(UIP)からの乖離の発生
    • コンビニエンスイールドによりドルの内生的なリスクプレミアムがもたらされる
  • 量的緩和と為替と金利の関係の解明
    • 量的緩和が長期債利回りを低めるとともにドルを増価させる理由の説明のためにはコンビニエンスイールド経路が必要

*1:ただしこの論文ではそちらではなく同じ著者たちの以前の研究を引いている。