インフレ、リスクプレミアム、および景気循環

というMITのJ. R. Scottのジョブマーケット論文(掲載している本人のサイト、原題は「Inflation, Risk Premia, and the Business Cycle」)をタイラー・コーエンが紹介している
以下はその要旨。

This paper explores the implications of the risk price puzzle—the previously undocumented empirical disconnect between inflation and risk premium shocks. I show that existing New Keynesian models struggle to rationalize the risk price puzzle with an upward-sloping Phillips curve. To resolve the puzzle, I develop a novel macro-finance model that integrates a two-sector real business cycle (RBC) framework with the government debt valuation equation, which directly links the price level to the market value of government debt. In the model, risk premium shocks generate realistic comovement in macroeconomic quantities without implying counterfactual inflationary dynamics. The response of inflation to risk premium shocks switches from positive to negative around 1998, mirroring the change in the stock-bond correlation.
(拙訳)
本稿はリスク物価パズルの意味を追究する。これは、これまで明らかにされてこなかったインフレとリスクプレミアムショックの間の実証的な断絶である。既存のニューケインジアンモデルが右肩上がりのフィリップス曲線でリスク物価パズルを合理化するのは苦しいことを私は示す*1。このパズルを解決するため、私は新たなマクロ金融モデルを構築する。同モデルでは2部門リアルビジネスサイクル(RBC)の枠組みと、物価水準と政府債務の市場価値を直接関連付ける政府債務評価方程式とを統合する。モデルでは、リスクプレミアムショックが、反現実的なインフレの推移を示すことなしに、マクロ経済の変数量に現実的な共変動をもたらす。リスクプレミアムショックへのインフレの反応は、株式と債券の相関の変化を反映して、1998年付近で正から負に転じた*2

本文の説明によると、リスクプレミアムの上昇は実際に失業率を上げ、生産、消費、投資を下げるが、これはオイラー方程式に示されるような負の需要ショックの理論通りである。しかしインフレはリスクプレミアムと概ね無関係であり、リスクプレミアムの上昇がインフレ上昇に結び付くこともあった。一方、通常のニューケインジアンモデルでは、右肩上がりのフィリップス曲線によりインフレは低下するはずである。これが著者の言うリスク物価パズルであり、著者はこのパズルを、リスクプレミアムショックが政府債務の市場評価における割引率や基礎的財政収支に与える影響をモデルに組み込むことにより合理化したとの由。

*1:本文では平坦なフィリップス曲線や金融政策の影響についても検討し、それでも合理化は厳しいとしている。

*2:本文ではリスクプレミアムショックとリスクフリーレートショックの相関がこの時期を境に変わったことで両変化(リスクプレミアムショックへのインフレの反応の変化と、株式と債券の相関の変化)が説明されるとしている。