部門別需給変化の分配への影響:統合的枠組み

というNBER論文が上がっているungated版へのリンクがある著者の一人のページ)。原題は「The Distributional Impact of Sectoral Supply and Demand Shifts: A Unified Framework」で、著者はNittai K. Bergman(テルアビブ大)、Nir Jaimovich(UCサンディエゴ)、Itay Saporta-Eksten(テルアビブ大)。
以下はその要旨。

Economies routinely experience a variety of sector-specific supply and demand shifts. Yet, the distributional welfare consequences of these shifts are not well understood. We address this gap by developing an analytical framework that jointly integrates supply-side and demand-side heterogeneity without imposing specific functional forms on consumption and production. This enables us to identify the key forces that shape the distributional welfare impact of sector-specific supply and demand shifts—in terms of consumer preferences and sectoral production functions. We estimate key parameters and quantify the heterogeneous welfare effects of sectoral shifts, revealing significant variation in their impact.
(拙訳)
経済は定期的に様々な部門固有の需給変化を経験する。しかし、そうした変化が分配の厚生に及ぼす帰結については良く理解されていない。我々はこのギャップに、消費と生産に特定の関数形を課すこと無しに供給側と需要側の不均一性を同時に統合する分析の枠組みを構築することで取り組んだ。それによって、部門固有の需給変化が分配の厚生に及ぼす影響を形成する主要な力を、消費者の嗜好と部門別生産関数との関係において識別することが可能になった。我々は主要なパラメータを推計し、部門別変化の不均一な厚生への影響を定量化し、その影響の顕著なばらつきを明らかにした。

以下は結論部を中心とした結果の要約。

  • 部門別需給変化の分配の厚生への影響は、以下の2つに分解できる。
    • エンゲル効果
      • 様々な所得水準の消費者が、各財に支出を異なる形で割り当てる、という消費パターンの非相似性により、部門別生産性の変化によって価格が変化した時に得られる利得がばらつく。
    • 相対賃金効果
      • 部門別需給の変化が需要の部門別構成を変化させることにより生じる均衡における再配分。
  • 理論分析では、消費代替パターン、およびそれと各部門の技能集約度との相互作用が相対賃金効果を決定することを示した。効用と生産について特定の関数形に依存せずに主要要因を推計でき、厚生への影響を定量化することが可能。
  • 部門別技術変化、公的部門の需要変化、消費者の嗜好の変化、の3つの部門別変化にその推計の枠組みを適用した。
    • 部門別技術変化では、高技能労働者と低技能労働者の厚生への影響の差は、マイナス24%(住宅)から75%(外食・娯楽・衣服)に亘った*1
      • 相対賃金効果が主な要因となる。
    • 公的部門の需要変化では、医療部門と軍事部門の従業者への影響を調べ、民間と比較した相対的な規模と技能集約度が厚生への影響を決めることを示した。
      • 軍事部門の従業者が米民間消費に占める割合は約2.25%で、技能集約度は経済平均と同程度。そのため、公共支出増加時の分配面の影響は比較的小さい。
      • 一方、公共医療の低技能集約度は約0.55で、民間7部門の最低値に近い。また、米民間消費に占める割合は約12%。この部門では、公共支出変化時の高技能労働者の厚生の弾力性は0.017なのに対し、低技能労働者では-0.01で、差は0.027になる。
    • 消費者の嗜好の変化の影響も定量化した。
      • プラスの需要変化が生じた場合、経済全体に比べて低技能集約的である製造業と農業では低技能労働者の利得が高技能労働者の損失の60%に留まるが、サービスでは高技能労働者の利得が低技能労働者の損失の167%になる。

*1:図の7部門は、住宅(Housing)、外食・娯楽・衣服(Food Away, Entertainment, and Apparel)、輸送(Transportation)、食料(Food at Home)、その他のサービス(Other Services)、耐久財(Durables)、公益企業(Utilities)。