米中貿易戦争が北ベトナムの都市の経済成長と環境への取り組みを如何に加速させたか

というNBER論文が上がっている。原題は「How the US-China Trade War Accelerated Urban Economic Growth and Environmental Progress in Northern Vietnam」で、著者はMatthew E. Kahn(南カリフォルニア大)、Wen-Chi Liao(シンガポール国立大)、Siqi Zheng(MIT)。
以下はその要旨。

The Trump Administration's tariffs created a wedge between mutually beneficial trades between China's producers and U.S. consumers. Moving production to nearby Vietnam allows firms to jump the tariff wall. Within Vietnam, cities closer to China with respect to distance and industrial mix grow faster and attract more FDI. They are increasingly consuming renewable power to fuel their local economy. We study the local air quality gains and the carbon dioxide emissions reductions associated with the growth in regional trade. China’s regional trade increases have important implications for the rise of the system of cities across Asia.
(拙訳)
トランプ政権の関税は中国の生産者と米国の消費者の間の互恵的な貿易に楔を打ち込んだ。生産を近隣のベトナムに移すことにより、企業は関税障壁を飛び越えることが可能になった。ベトナム内では、距離と業種構成の点で中国に近い都市がより速く成長し、より多くの海外直接投資を惹き付けた。それらの都市は地域経済の動力として再生可能エネルギーの消費を増やした。我々は、地域貿易の伸びと結び付いている地域の大気の質の改善ならびに二酸化炭素の排出の減少を調べた。中国の地域貿易の増加は、アジアの都市のシステムの勃興にとって重要な意味を持つ。

米中貿易戦争でベトナムが漁夫の利を得た、というのは巷間良く聞かれる話であり、米中貿易戦争とグローバルバリューチェーン - himaginary’s diaryで紹介したような定量的な分析もなされているところであるが、再生可能エネルギーの利用拡大を通じて環境面でも利得があった、という話はあまり聞かないので、この研究の一つの発見かと思われる。