というNBER論文が上がっている(ungated版)。原題は「Industrial Policies and Innovation: Evidence from the Global Automobile Industry」で、著者はPanle Jia Barwick(ウィスコンシン大マディソン校)、Hyuk-Soo Kwon(シカゴ大)、Shanjun Li(コーネル大)、Yucheng Wang(シドニー大)、Nahim B. Zahur(クイーンズ大)。
以下はその要旨。
This paper examines the impact of industrial policies (IPs) on innovation in the global automobile industry. We compile the first comprehensive dataset linking global IPs with patent data related to the auto industry from 2008 to 2023. We document a major shift in policy focus: by 2022, nearly half of all IPs targeted electric vehicles (EV)-related sectors, up from almost none in 2008. In the meantime, there has been a clear technological transition from internal combustion engine (GV) technologies to EV innovations. Our analysis finds a positive relationship between policy support and innovation activity. At the country level, a one-standard-deviation increase in five-year cumulative EV-targeted IPs is associated with a four-percent rise in new EV patent applications. Firm-level analyses (using OLS, IV, and PPML) indicate that a ten-percent increase in EV financial incentives received by automakers and EV battery producers leads to a similar four-percent increase in EV innovations. We confirm the importance of path dependence in the direction of technology change in the automobile industry but find no evidence that EV-targeted IPs stimulate innovation in GV technologies.
(拙訳)
本稿は、世界の自動車産業におけるイノベーションへの産業政策の影響を調べた。我々は、2008年から2023年に掛けての世界の産業政策を、自動車産業と関連する特許データと結び付けた、初めての包括的なデータセットを構築した。我々は政策の焦点の大きな変化を明らかにした。2022年にはすべての産業政策の半分近くが電気自動車(EV)関連部門を対象としていたが、2008年にはほぼゼロだった。その間、内燃機関(GV)技術からEVイノベーションへの明確な技術的遷移があった。我々の分析は、政策支援とイノベーション活動の間の正の関係を見い出した。国レベルでは、EVを対象とした産業政策が5年間の累積で1標準偏差増えることは、新たなEV特許出願が4%増えることと結び付いていた。(OLS、IV、PPML*1を用いた)企業レベルの分析が示すところによれば、自動車メーカーやEV電池生産者が受け取るEVの金銭的なインセンティブが10%増えると、EVイノベーションが同じく4%増えることにつながった。自動車産業の技術変化の方向性における経路依存の重要性を我々は確認したが、EVを対象とした産業政策がGV技術のイノベーションを刺激したという実証結果は得られなかった。
以下はungated版が掲載されているシカゴ大のサイトに掲載されているResearch Briefの図。
データセットを構築する際に収集した2008年から2023年に掛けての産業政策の文書は6万以上で、それを金銭的(消費者への補助金や税制上のインセンティブ)、非金銭的(生産割当や排出基準)に分類したほか、政策の対象別にEV、GV(ガソリン車)、両方に分類したという。特許データは1980年から2023年までのものを利用し、EV、GV、一般技術に分類したという。
企業レベルのEVのモデルごとの補助金については、2013年から2020年までのオーストリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、日本、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、米国の13か国のデータを用いたとのこと。この13か国で世界のEV売り上げのおよそ95%を占めるという。
EV関連の特許数では日本が累積、2019年単年のいずれもトップになっており、累積では36%を占めたとの由(トヨタ、ホンダ、ルノー・日産アライアンス)。ただ、その割には日本の産業政策は全体、EV対象のいずれにおいても少なかった、と著者たちは驚きを込めて記述している。
分析では、上の要旨に記されたことのほか、EVの知識の蓄積が既にある企業ではEV技術のイノベーションが進んだ半面、GVの専門技術があるとEV関連のイノベーションが妨げられることが示されたとの由。従って既にEVに集中していた企業は産業政策でますます便益を得て、EVを対象とした持続的な産業政策の価値を高めていった、とのことである。
*1:Poisson pseudo maximum likelihood。