統計的生命価値:メタ分析のメタ分析

タイラー・コーエンも取り上げているが、表題のNBER論文が上がっている。原題は「The Value of Statistical Life: A Meta-analysis of Meta-analyses」で、著者はジョージア州立大のH. Spencer Banzhaf。
以下はその要旨。

The Value of Statistical Life (VSL) is arguably the most important number in benefit-cost analyses of environmental, health, and transportation policies. However, agencies have used a wide range of VSL values. One reason may be the embarrassment of riches when it comes to VSL studies. While meta-analysis is a standard way to synthesize information across studies, we now have multiple competing meta-analyses and reviews. Thus, to analysts, picking one such meta-analysis may feel as hard as picking a single "best study." This paper responds by taking the meta-analysis another step, estimating a meta-analysis (or mixture distribution) of six meta-analyses. The baseline model yields a central VSL of $7.0m, with a 90% confidence interval of $2.4m to $11.2m. The provided code allows users to easily change subjective weights on the studies, add new studies, or change adjustments for income, inflation, and latency.
(拙訳)
統計的生命価値はおそらく間違いなく、環境、健康、および輸送政策の費用便益分析で最も重要な数字である。しかし各機関はVSLの値として幅広い範囲の数字を用いている。その一つの理由は、VSLの研究が豊富過ぎることにあろう。メタ分析は各研究の情報を統合する標準的な方法であるが、現在は複数の競合するメタ分析と概観がある。従って分析者にとっては、そうしたメタ分析の一つを拾い上げることは、唯一の「最善の研究」を拾い上げるのと同じくらい難しいことに感じられることであろう。本稿はメタ分析をもう一段推し進め、6つのメタ分析のメタ分析(ないし混合分布)を推計する。ベースラインモデルからは700万ドルという中心的なVSLが得られ、90%信頼区間は240万ドルから1120万ドルである。公開されるコードでユーザーは、簡単に各研究の主観的ウエイトを変更したり、新たな研究を追加したり、所得、インフレ、潜伏期間への調整を変更したりすることができる。

ちなみに少し前に紹介した論文の分析によると陸軍兵士のVSLは50万ドルから90万ドルとのことなので、上記の90%信頼区間の下限を大きく下回っている。そちらの研究では、非戦闘職では4年間の死亡率が1000人当たり8人、戦闘職では4年間の死亡率が1000人当たり24人に達するとVSLが280万ドル程度になるとのことなので、死亡リスクがそこまで上がった時に漸く陸軍兵士のVSLが上記信頼区間の下限を超えることになる。