というNBER論文が上がっている。原題は「Is that Really a Kuznets Curve? Turning Points for Income Inequality in China」で、著者はMartin Ravallion(ジョージタウン大)、Shaohua Chen(厦門大)。
以下はその要旨。
The path of income inequality in post-reform China has been widely interpreted as “China’s Kuznets curve.” We show that the Kuznets growth model of structural transformation in a dual economy, alongside population urbanization, has little explanatory power for our new series of inequality measures back to 1981. Our simulations tracking the partial “Kuznets derivative” of inequality with respect to urban population share yield virtually no Kuznets curve. More plausible explanations for the inequality turning points relate to determinants of the gap between urban and rural mean incomes, including multiple agrarian policy reforms. Our findings warn against any presumption that the Kuznets process will assure that China has passed its time of rising inequality. More generally, our findings cast doubt on past arguments that economic growth through structural transformation in poor countries is necessarily inequality increasing, or that a turning point will eventually be reached after which that growth will be inequality decreasing.
(拙訳)
改革開放後の中国の所得格差の推移は「中国のクズネッツ曲線」と広く解釈されてきた。我々は、二重経済における構造転換と人口の都市へのシフトのクズネッツ成長モデルが、1981年に遡る我々の新たな格差指標の系列についてほとんど説明力を有しないことを示す。格差の「クズネッツの偏微分」を追った我々のシミュレーションは、事実上クズネッツ曲線をまったく生み出さない。格差のターニングポイントについてのより説得力のある説明は、都市と地方の平均所得の差の決定要因に関係しており、その中には複数回の農業政策改革が含まれる。我々のは発見は、中国は格差拡大の時期を過ぎたことをクズネッツ過程が保証しているという前提すべてに対して警鐘を発している。より一般的な話として、我々の発見は、経済成長が構造転換を通じて貧困国の格差を必ず拡大するとか、最終的には成長が格差を縮小させるターニングに達するといった過去の議論に疑問を投げ掛ける。
こちらのサイトでは著者の一人(Ravallion)が解説記事を書いており(そこからungated版にもリンクしている)、以下の図を掲載している。
この図について、格差縮小の時期は1980年代初め、1990年代半ば、2000年代半ばの3回あった、とungated版では指摘している。即ち、ターニングポイントは最近注目されている2008-2009年だけでなく、1994年にもあった、と著者たちは言う。だがそれはクズネッツ理論で重視される都市への人口のシフトとはほぼ無関係で、おそらくは政策要因で地方の平均所得と都市の平均所得の差が縮小したためだった。それは今回も同様であり、今回のターニングポイントが短命に終わった1994年のターニングポイントと同様の運命を辿らない保証はない、というのが著者たちの指摘である。