というNBER論文をジェフリー・フランケルらが上げている。原題は「The Virus, Vaccination, and Voting」で、著者はJeffrey A. Frankel、Randy Kotti(いずれもハーバード大)。
以下はその要旨。
Vaccination rates have a statistically significant downward effect on the Covid-19 death rate across US counties, as of August 12, 2021. Controlling for poverty rates, age, and temperature lowers the magnitude of the estimate a little. Using the Biden-Trump vote in the 2020 election as an instrument for vaccination rates raises the magnitude of the estimate. Presumably it corrects for a positive effect of observed local Covid deaths on the decision to get vaccinated. Overall, the estimated beneficial effect holds up and has risen over time.
(拙訳)
2021年8月12日現在の米国の各郡において、ワクチン接種率は統計的に有意にコロナによる死亡率を引き下げる効果がある。貧困率、年齢、気温でコントロールすると、推計値の大きさはやや低下する。2020年の大統領選でのバイデンとトランプの得票をワクチン接種率の操作変数として用いると、推計値の大きさは上昇する。その操作によって、観測された各地のコロナ死がワクチン接種を受ける決断に与えた正の効果が修正されると推定される。全般に、推計されたプラスの効果は頑健であり、時間とともに増大した。
本文では、貧困率をコントロール変数として採用した理由として、低所得者は密な環境で暮らす可能性が高いと同時に、ワクチン接種を受ける可能性が低いことを挙げている。その場合、ワクチン接種の正の効果は見せかけである可能性がある。
一方、空港近くや交通の要所などコロナ禍が広がっている地域では、人々が危機感を抱いて積極的にワクチン接種を受けている可能性がある。その場合、単純な回帰は逆にワクチン接種の効果を過小評価している可能性がある。
実際に貧困率等のコントロール変数を入れた場合、ワクチン接種の効果は確かに下がったが、依然として有意だったとの由。具体的な数字としては、通常回帰でコントロール変数なしの場合は、7月15日にワクチン接種を完全にうけたことによるその後28日間(=8月12日まで)の10万人当たりのコロナ死の低下が接種率1%当たり0.135(標準誤差は0.015)だったのが、コントロール変数を入れると0.094(標準誤差は0.017)になったと報告している(いずれもp値は0.01%水準)。
また、ワクチン接種率と逆相関の高いトランプへの投票率を操作変数として用いたところ、コントロール変数なしの場合は、0.154(標準誤差は0.020)と数値は単純回帰の0.134より高まったという。これは上記の過小評価が是正された効果であろう、と論文では推測している。コントロール変数を入れるとやはり低下して0.090(標準誤差は0.024)になったとのことである。ただ、下がったとは言え依然として有意性は高く(p値は0.01%水準)、ワクチン接種率を100%にすればコロナ死をゼロ近くにできることを示す数字である、と著者たちは主張する。また、1か月前のデータ(=7月12日まで)を使った場合はこの推計値は0.054(p値は0.1%水準)だったので、効果は――あるいはデルタ株の影響で――時間とともに上昇している、と著者たちは指摘している。