というIMF論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「Mask Mandates Save Lives」で、著者はNiels-Jakob H Hansen、Rui C. Mano。以下はその要旨。
We quantify the effect of mask mandates in the United States. Our regression discontinuity design exploits county-level variation in COVID-19 cases, hospital admissions, and deaths across the border between states with and without mandates. We find a significant and substantial effect—mask mandates reduced new weekly COVID-19 cases, hospital admissions, and deaths by 55, 11 and 0.7 per 100,000 inhabitants on average. Crucially, we find that the effect of mask mandates depends on the attitudes toward mask wearing at the county level, with larger effects in counties more positively inclined towards mask wearing. Our results imply that mandates saved 87,000 lives through December 19, 2020, while a nationwide mandate could have saved 58,000 additional lives. These large effects suggest that mask mandates are a crucial tool to counter pandemics, particularly if accepted widely by the population. Our results are thus also relevant for countries who will not be able to immunize large swaths of their population in the short term.
(拙訳)
我々は米国でのマスク義務化の効果を定量化した。我々の不連続回帰の分析デザインは、義務化している州としていない州の州境をまたがる郡レベルのコロナ感染者数、入院数、および死亡者数の違いを利用している。我々は有意で実質的な効果を見い出した――マスク義務化は、新規の週次のコロナ感染者数、入院数、および死亡者数を平均して10万人当たり55人、11人、0.7人減らした。重要なのは、我々が見い出したマスクの義務化の効果は、マスク着用に対する郡レベルの姿勢に左右されたことである。マスク着用に積極的な郡では効果が大きかった。我々の分析結果は、義務化により2020年12月19日までに8万7千人の命が救われたこと、国レベルで義務化していればさらに5万8千人の命を救えたはずであることを含意している。こうした大きな効果は、マスク義務化がコロナ禍に立ち向かう上で重要な手段であったことを示している。特に人々に広く受け入れられた場合はそうである。従って、我々の分析結果は、短期間で国民の多くの割合を免疫できない国にとっても重要である。
ちなみにタイラー・コーエンはこちらのMRブログエントリで、デルタ株は感染力の強さによってマスクの効果を以前に比べて弱めたかもしれないが、まさにその感染力の強さによって一人当たりの感染者数を1.3人から7人くらいにまで増やしたため、たとえ以前に比べて絶対的な効果が弱まったとしても、マスクを着用していない場合に比べたその相対的な効果はむしろ高まったかもしれない、という興味深い考察を行っている。
一方、同じMRブログでアレックス・タバロックが紹介したジョン・コクランのブログでは、バイデン政権のマスク義務化の方針を、お使いに行った子供がお使い先の家の前の子犬を追いかけてどこかに行ってしまったようなもの、と酷評している。マスクはその効果においてワクチンはおろか社会的距離より数段劣るのであるから*1、他にやることがあるだろう、というわけである。