慈悲深い専制君主の神話を解き明かす

というのが、昨日紹介したイースタリーのエントリで言及されていた9/28エントリのタイトルである(原題は「Solving the mystery of the benevolent autocrat」)。


以下に拙訳で紹介してみる*1

ステップ1
確かに、経済成長の世界ランキング上位の成功例はほとんど専制主義国家だ!

ステップ2
だがちょっと待て、経済成長の世界ランキング下位の失敗例もまたすべて専制主義国家だ!

ステップ3
種明かし:専制主義国家は成長率の分散が高いので、最高と最低の成長率も専制主義国家となる。


  一人当たり成長率(縦軸)と民主主義(横軸)の散布図、1960-2008*2

学者向けの教訓
ステップ1の成功だけに焦点を当てると、選択バイアスに陥ることになり、専制主義が経済成長に良い、という誤った結論に達してしまう。
平易な言葉での教訓
専制主義はリスクが高い。それは高い成長率をもたらすかもしれないが、成長の崩壊に終わる可能性も同じくらいある――リー・クアンユー一人につき、ジャン=ベデル・ボカサが一人いるのだ。
ボーナスクイズ
ステップ1の専制君主が慈悲深く、ステップ2の専制君主が悪意を持つと主張することは、なぜ論理的に間違いであるのか?

以前、小生は以下のようなことを書いたが、このイースタリーのエントリは、それをグラフで裏付ける結果となっている。

<属人性>
ケインズハーヴェイロードの前提が顧みられなくなって久しい現在、あまり声高に主張する人はいないが、政府の経済政策も、かなりの部分、属人性の問題に帰着する。産業政策も、人の宜しきを得て進めれば、成功しないわけではない。毀誉褒貶はあるにせよ、シンガポールの発展はリー・クアンユー抜きにはありえなかっただろうし、マハティール抜きに現在のマレーシアが存在したかは疑わしい。中国のトウ小平、韓国の朴正煕も然り。

もちろん、一方ではジンバブエムガベイラクフセインウガンダのアミンや北朝鮮金親子などのDQN独裁者が世界にはひしめいているので、統計的には開発独裁が経済成長に有効という結果はどう頑張っても出てこないだろうが。

政府の役割 - himaginaryの日記

*1::[2017/7/1]各図のリンク先をhttp://aidwatchers.com/wp/wp-content/uploads/2010/09/best-growth-rates.jpghttp://aidwatchers.com/wp/wp-content/uploads/2010/09/10-worst-growth-rates.jpghttp://aidwatchers.com/wp/wp-content/uploads/2010/09/democracy-and-growth-shortfall.jpgから修正。

*2:追記によると、成長率データのソースは(世銀の)WDIで、ここでは1960-2008年の幾何平均を取ったとのこと。民主主義指標のソースはPolity IVとのこと。