ラインハート=ロゴフの「This Time Is Different: Eight Centuries of Financial Folly」は当然ながらあちこちのブログで取り上げられ、拙ブログでも何回かそうしたエントリを紹介してきたが、イースタリーも約一ヶ月前に取り上げている(Economist's View経由)。そのイースタリーのエントリのタイトルは「Stop panicking: Capitalism repeatedly recovers from financial crises」となっており、あまり悲観するには及ばない、という論調で書かれている。これは、これまで同書を取り上げた人々が悲観論に傾きがちだったことを考えると、やや異色の解釈と言える。
イースタリーはその楽観論の根拠を以下の3点に置いている。
- ラインハート=ロゴフが示したように、金融危機はありふれた現象である。
- そうした出来事があっても、世界の一人当たりGDPは、何だかんだ言って上昇し続けてきた(エントリでは米国の一人当たりGDPのグラフが示されている)。
- ラインハート=ロゴフも危機前後の一人当たり経済成長率を計算しているが、危機後も比較的すぐに2%成長を取り戻すという傾向が観察されている。
これについては、コメント欄で、何もしなくても危機から自然回復するわけではない、という趣旨の批判があった(Economist's ViewでもMark Thomaも同様の趣旨のことを書いている)。それに対しては、イースタリーもコメント欄で反論し、自分の考えをより詳らかにしている。
Jim and Rachek, I think you are reading things that I did NOT say into the post. I didn’t say financial crises are self-correcting, and it would be crazy not to attempt to fix specific problems that caused financial crises each time they happen. My point is just that rich capitalist countries have gotten rich IN SPITE OF repeated financial crises (the US is just a representative example, a similar graph could be done for other rich countries). So preventing financial crises is NOT a necessary condition for a society getting rich under capitalism.
(拙訳)
ジムとラチェク、君達は私が書いていないことを読み取ったようだ。私は金融危機は自己修正されると言った覚えは無いし、それぞれの金融危機に際して、危機の原因となった特有の問題を解決しようとしないのは狂気の沙汰だろう。私が言いたかったことは、裕福な資本主義国は、繰り返し発生する金融危機にも関わらず裕福になったということに尽きる(米国は単なる代表例で、他の富裕国についても同様のグラフが書ける)。つまり、金融危機を未然に防ぐことは、資本主義のもとで社会が裕福になる必要条件ではないということだ。
イースタリーが示した米国の一人当たりGDPの推移はこちら*1。
期間を通じて伸びているとは言え、大恐慌の近辺はやはり落ち込みが目立つ(イースタリーもその点は認めている)。
なお、日本の一人当たりGDPの推移は少し前にnight_in_tunisiaさんがグラフ化されているが、そのグラフ(下図)と上図を比較してみるのも興味深い。
イースタリーのグラフは対数グラフになっているので比較には注意を要するが、90年以降の日本のトレンドが米国の長期トレンドに比べて明らかに見劣りすることが読み取れる。
*1:[2017/7/1]リンク先をhttp://aidwatchers.com/wp/wp-content/uploads/2010/03/per-capita-income-US.pngから修正。