アフリカの貧困は紀元前1000年に決まっていた?

というブログ記事をイースタリーが書いていた(原題は「Was the poverty of Africa determined in 1000 BC?」)。内容はイースタリーが共著した論文の紹介。


論文では、紀元前1000年、紀元ゼロ年、紀元1500年、そして現代という4時点の各国の技術採用度を測定する、という気宇壮大なことを試みている。表4ではその技術採用度を指標化したものの五大陸ごとの平均が記載されている。試しにグラフ化してみると以下のようになる。

ここで、技術の発明ではなく採用の程度を指標としたところが味噌である。論文ではその点について以下のように記述している。

Why do our historical rankings differ from the view that ancient Europeans were barbarians, while China and the Middle East/Islamic civilizations were well in the lead for most of our sample period and produced most of the useful inventions? Basically, it is because what we are measuring is the adoption of technologies rather than the invention (i.e., by 1500, gunpowder was already adopted in Western Europe and most of the Arab world). Most historians agree that Europe had caught up to and surpassed the Islamic civilization sometime in the late Middle Ages.
(拙訳)
なぜ我々の過去のランキングは、古代ヨーロッパ人は野蛮人だった反面、中国および中東のイスラム文明は当該期間において概ね最先端を行っており、有益な発明の大部分を生み出した、という見方と異なった結果になっているのか? その理由は、基本的に、我々が技術の発明ではなく採用について測定しているためだ(例えば、1500年までに、火薬は西欧とアラブ世界の大部分において既に採用されていた)。歴史家の多くは、ヨーロッパが中世後期のどこかでイスラム文明に追いつき追い越した、という見解で一致している。


ちなみに過去の技術に関するデータソースは「Atlas of Cultural Evolution」との由。


論文では回帰分析を用いて、こうした過去の技術が現在の各国の一人当たり所得に与える影響について調べている。イースタリーのブログでの紹介によると、紀元1500年の技術が最も説明力が高く、今日のサハラ以南のアフリカと西欧の所得の差の78%がそれによって説明できるという(下図*1)。この紀元1500年というのは奴隷貿易植民地主義より前であることをイースタリーは指摘している。

また、紀元前1000年の技術の状況が2500年後の紀元1500年と相関が高いこともイースタリーは指摘している。そして、そのように技術の格差が超長期に亘って継続する理由として、先進技術を保有していると、新技術を開発する能力も高くなることを挙げている。同時に、高い技術を所持し続けていた中国で産業革命が起きなかったことも反例として挙げ、過去の技術ですべてが決まるわけでは無い、とも指摘している。

*1:図ではMigration-adjustedと記述されているが、これは、1500年以降の人口移動に関して調整済みであることを示している。[2017/7/1]リンク先をhttp://aidwatchers.com/wp/wp-content/uploads/2010/07/Income-Technology-Scatterplot.pngから修正。