金融部門の貸出残高がGDPの110%を超えたら要注意

という主旨の論文Mostly Economicsならびにvoxeuで紹介されている。著者はGraduate InstituteのJean-Louis Arcand、IMFのEnrico Berkes、UNCTADのUgo Panizzaの三人。


voxeuによると、論文の分析の概要は以下の通り。

  • First, we build a simple model finding that, even in the presence of credit rationing, the expectation of a bailout may lead to a financial sector that is too large with respect to the social optimum.
  • Second, we use different datasets (both at the country and industry-level) and empirical approaches (including semi-parametric estimations) to show that there can indeed be “too much” finance.

Our results show that the marginal effect of financial development on output growth becomes negative when credit to the private sector surpasses 110% of GDP. This result is surprisingly consistent across different types of estimators (simple regressions and semi-parametric estimations) and data (country-level and industry-level).


(拙訳)

  • まず我々は、簡単なモデルを構築し、仮に信用割り当てが存在したとしても、金融機関の救済措置が取られるという期待のために金融部門が社会的な最適規模を超えて肥大化し過ぎることがあり得ることを示した。
  • 次に我々は、様々なデータ(国レベル、ならびに産業レベル)と実証手法(セミパラメトリック推定など)を用いて、実際に金融部門が「過剰」になり得ることを示した。

我々の得た結果によると、金融部門の発展が経済成長に与える限界的な影響は、民間部門への信用がGDPの110%を超えるとマイナスになる。この結果は、異なる推計手法(単純な回帰やセミパラメトリック推定)やデータ(国レベルや産業レベル)を通じて驚くほど一貫していた。


この110%という閾値は、民間への信用がGDPの100%を超えると経済成長の変動性が高まるというイースタリー、スティグリッツらの2000年の論文における実証結果と整合的である、と著者たちは述べている。


論文の最後に掲げられているグラフでは、2006年時点の要注意国21カ国(=民間への信用がGDPを超えていた国)が以下のように挙げられている。


この上位10カ国には、金融危機で問題になった国がほぼすべて含まれてる、と著者たちは指摘する。即ち、アイスランド、米国、アイルランド、英国、スペイン、ポルトガルである。ギリシャは入っていないが、それはギリシャでは金融部門は比較的小さかった一方で、公的金融が問題となったという特殊事情による、との由。


なお、1985年時点で民間への信用がGDPを超えていたのはシンガポール、スイス、日本の3カ国だけだったという(その時点では米国は99%とぎりぎりGDPを下回っていた)。それが1995年には14カ国まで増えたとのことである。


ちなみに日銀の時系列統計データ検索サイトから「貸出・資金吸収動向等」の「総貸出平残(銀行・信金計)」を四半期ベースに変換して取得し、名目GDPの季調値と並べてみたのが以下の図である(このデータは2000年以降のみ取得できたので、期間もそれに合わせている)。

これを見ると、2000年代初期には貸出残高はGDPを上回っていたが、その後は概ね下回っていることが読み取れる。ちなみに2000年第一四半期の貸出残高はGDPの108%であり、論文の閾値をやや下回る水準であった(ただしGDPについて季調前の数字を使うと112%となり、閾値を僅かに超える)。