QE2:Solace of Quantum

タイトルはもちろんこの映画のパクリだが、量的緩和の第2弾(QE2)において、貨幣供給の量(quantum)に応じて人々がどの程度の安堵(solace)を得るか、という意味を込めて付けてみた。


WSJブログのこの記事邦訳)では、バーナンキは次の量的緩和政策について漸進主義の適用を考えているのではないか、と推測している。その根拠となっているのが「漸進主義(Gradualism)」と題された2004年の講演で、そこでバーナンキは、パターゴルフの喩えを使い、ブレイナードの1967年の論文*1に記された政策の漸進主義の考えを説明している。パターゴルフのゲームで勝てそうな状況にありながら、何らかの理由で特性を良く把握していないクラブを使う羽目になった状況を想定してみよう。その場合は、思ったよりボールが伸びてオーバーシュートしてしまう危険性を考慮すると、小さく刻んでいくのが正しい戦略となる、とバーナンキは解説している。


この考え方は、同じWSJブログに少し前に掲載されたマイロン・ショールズのQE2論邦訳)に通ずるものがある。そこでショールズは、量的緩和に対する幾つかの疑問点を挙げると同時に、量的緩和ラッファー曲線を考えた場合、国債の増加分をマネタイズするくらいに留めるのがちょうど良いのではないか、という提言を行っている(これは小生が以前提起した議論とほぼ同様の理屈に基づいているように思われる)。


一方、バーナンキのパターゴルフ論には、Mark Thomaサムナーが反発している*2
Thomaは、もし急な上り坂の上にフラッグがあり、その先は平坦になっているならば、漸進主義は間違った手法である、と指摘する。その場合は、とにかく坂を越すことが先決であり、オーバーシュートする方がボールがまた坂を転がり落ちるよりまし、というわけである。
またサムナーは、バーナンキがプレーしているのはパターゴルフではなく、Wiiのゴルフだ、と指摘している。Wiiゴルフでは、練習スイングをすると推定飛距離が画面上に表示されるが、同様に、最近のFRB高官の発言(=練習スイング!)に対する市場の反応により、大体の効果は目測できているはずだ、とサムナーは言う。そして現在の市場の反応からすると、FRBはまだ十分に強く振り切っていない、とサムナーは批判する。


ただ、ここで注意すべきは、上記の2004年のバーナンキ講演は、あくまでも金利政策について述べたものである点だ。WSJ記事は「基本は今も同じだ(But the framework still applies to today’s world)」として、あっさり量的緩和政策についても同一視しているが、それが本当にバーナンキの考えかどうかは議論の余地があるだろう。

*1:Brainard, William (1967). "Uncertainty and the Effectiveness of Policy," American Economic Review, 57 (May), pp. 411-25.

*2:[11/4追記]また、Modeled Behaviorのカール・スミスも反発している。スミスは、今グリーン上にいるならばそのような堅実主義も分かるが、今の経済はバンカーに捕まっているのだ、と述べている。このスミスのエントリにはThomaがコメントしており、自ブログで述べた上り坂の喩えを持ち出している。