相模原障害者殺傷事件とピーター・シンガー

こちらのtogetterを目にして、海外では相模原事件とピーター・シンガーを結び付けた議論はされているのだろうか、とぐぐってみたところ、シンガー自身が豪州ABCのQ&Aという番組でこの問題について追及された際のやり取りを取り上げたデイリーメール記事が見つかった。以下はそこからの引用。

After 19 people were massacred at a disabled care facility in Japan, disabilities advocate Kath Duncan asked Mr Singer whether his views inspired such violence.
Ms Duncan only got part way through her question before Mr Singer cut her off to ask, 'And you think that I'm supporting this in any way?'
Host Virginia Trioloi was quick to jump in and hose down the hostilities, telling Mr Singer to let Ms Duncan finish her question.
Ms Duncan continued: 'In Japan, just last week, 19 disabled people were murdered.
'Aren't your views dog whistling to these sort of people?'
...
Mr Singer has been a vocal advocate for parents' rights to euthanise newborn babies born with severe, life-limiting disabilities.
He pointed out the difference between these views and supporting the slaughter of disabled adults in Japan.
He said: 'What I'm talking about is decisions that are being made all the time in neonatal intensive care units in hospitals where at the moment parents do get a say if it is a question of withdrawing treatment, withdrawing life support from a severely disabled infant.
'What I'm doing is trying to give parents a say in questions where they're the ones who are going to be forced to look after this child, whether they want to or not.
When pressed on his stance, he added:'It is the parents and doctors making a decision in consultation. It is not some crazy guy going into a unit and killing people.'
(拙訳)
日本の障碍者福祉施設で19人が殺された後、障碍者の活動家キャス・ダンカンがシンガー氏に対して、彼の思想がそうした暴力のきっかけになったのではないか、と尋ねた。
ダンカン氏が質問している最中にシンガー氏は彼女を遮り、「私が何らかの形でこれを支持していると思っているのですか?」と尋ねた。
司会のバージニア・トリオリは急いで間に割って入って口論を仲裁した。彼女はシンガー氏に、ダンカン氏に質問を最後まで続けさせるように言った。
ダンカン氏は「日本ではつい先週、19人の障碍者が殺害されました。あなたの考え方はそうした人々に対して犬笛を吹いていたのではないですか?」と続けた。
・・・
シンガー氏は、命に関わる重度の障碍を持って生まれてきた新生児を両親が安楽死させる権利を強く主張してきた。
彼は、そうした見解と、日本で起きた障碍を持った成人の大量殺人を支持することとの違いを説明した。
彼は次のように述べた。「私が取り上げているテーマは、病院の新生児集中治療室で常に行われている決定についてです。現在、重度の障碍を持つ乳児の治療をやめて生命維持装置を取り外すか、という問題については、両親は確かに発言権を持っています。私が提唱しているのは、望む望まないに関わらず自分たちがその子供の面倒を見なければならないという問題についての発言権を両親に与えたい、ということです。」
彼の立場をさらに明確に表明するように促されて、シンガーは次のように付け加えた。「両親と医師が相談して決める話です。頭のおかしな誰かが入ってきて人々を殺して回るという話とは違います。」

こちらのSBS記事でもこのやり取りが取り上げられており、該当部分の動画も見られる。ただ、この記事の記者はシンガーにかなり批判的で、植松容疑者とシンガーの思想上の共通点はシンガーが思う以上にある、と述べている。
ちなみにABCのこのページでは完全な動画が上がっており、トランスクリプトも読める。そこから上記のデイリーメール記事で端折られたシンガーの発言を補足すると、概ね以下の通り。

  • 生きたいと思う人は最大限の支援を受けて人生を楽しむべきで、そのことは本人の障碍とは完全に無関係。
  • 重度の障碍を持つ乳児の治療をやめて生命維持装置を外す決定に両親が関わるのは結構なことで、常に起きていることでもある。しかし、乳児が自力呼吸できる場合、両親からは決定権が奪われてしまう。シンガーが提唱しているのは、その場合でも両親と医師が相談して乳児を安楽死させることができるようにすること。