DSGEの進むべき道

「DSGEモデルに未来はあるか?」という小論を書いて波紋を巻き起こしたブランシャールが、これまでの有名経済学者の反応を基に、DSGEに関する考察を深めている(H/T Economist's View)。


ブランシャールによれば、以下の3点については広く合意が取れているので、これらについては改めて議論する必要は無いという。

  1. マクロ経済学一般均衡を扱う
  2. 異なる目的については異なる種類の一般均衡モデルが必要となる
    • 調査・教育用には、透明性と簡明性が基準となるべきで、トイモデルが適している。
    • 予測用には、予測の正確さが基準となるべきで、今のところは純粋に統計的なモデルが最善。
    • 条件付き予測、即ち例えば政策変化の効果を見る際には、それよりは構造的なモデルが必要となるが、データの当てはまりが良くなくてはならず、ミクロ的基礎付けにこだわる必要はない。
  3. 部分均衡モデルとその推計は、マクロ経済学と関連の深い特定のメカニズムを理解する上で重要
    • それが十分に理解された段階で初めて、その一般均衡効果を理解することが重要となる。
    • すべてのマクロ経済学者が一般均衡モデルを研究する必要はない(分業というものがあるではないか)。


一方、次の2点については意見が分かれている、とブランシャールは言う。

  1. 各種の一般均衡モデルがある中でDSGEが果たすべき役割は、マクロ経済学メカノセットを提供することである
    • 即ち、新たな要素を議論したり統合したりする際の分析の公式なプラットフォームとなるべき。
      • 新たな要素の例:労働市場での交渉、財市場での価格設定、仲介での銀行、消費での流動性制約、複数均衡
    • これを危険で反生産的な夢であり、時間を無駄にするだけに終わる、という人もいるが、ブランシャールは望ましく達成可能な目標だと考えている。
  2. DSGEがこの役割を果たす唯一の道は、明示的にミクロ的基礎付けに基づいて構築された場合のみ
    • それは、ミクロ的基礎付けされたモデルが他よりも神聖なため、というわけではなく、それ以外の手法では新たな要素を統合して正規の議論をするのが難しいため。
    • RBC信者のように)世の中に歪みがあまり無いと信じる人にとっては、これはごく自然な手法。
    • 世の中がマクロ経済の変動に関連する歪みで満ち溢れていると信じる人にとっては、これは長く厄介な旅路への道で、多くの歪みを導入した挙句、不格好なモデルに終わるリスクがある。
    • 近道ないし他の出発点があれば良いと思うが、ブランシャールはどちらも無いと考えている。

もしこの2点のいずれかが受け入れられないというのであれば、DSGEは進むべき道ではなく、話はそこで終わる。しかし(たとえ渋々ながらでも)両者を受け入れるのであれば、DSGEをまるごと捨て去ることはできない、とブランシャールは言う。とは言え、現在のDSGEは基本メカノセットたる要件を備えていないので、研究の優先課題は明らかだ、として彼は以下の2点を挙げている。

  1. 現代版IS-LMを目指す
    • 技術の進歩とシミュレーションプログラムの容易化により、IS-LMよりはかなり大型になる必要があろうが、透明性は維持しなくてはならないだろう。
    • ブランシャールの考える方向性は、ニューケインジアンモデルから出発して、消費と価格設定の方程式をより現実的なものとし、資本、ひいては投資決定を付け加えること。
  2. 様々な側面で真剣に改善を追求する
    • 例:消費者行動のもっと現実的なモデルは構築できるか? どのようにすれば、人々と企業が将来を気に掛けるという概念を維持しつつ、合理的期待から逸脱できるか? 金融仲介を導入する最善の手法は何か? (これまで絨毯の下の掃き寄せられてきた)集計の問題をどうすれば扱えるか? (現時点では深刻な欠陥を抱えている)推計をどうすべきか? そして、それぞれのケースについて、現在の手法が気に入らなければ、代替として何が提唱できるか?
    • DSGEを保持すべきか否か、とか、マクロ経済学一般の有用性、といった大上段の議論ではなく、以上のような議論を積み重ねていくべき。