DSGEモデルによるクラウディングアウト?

昨日紹介したブランシャールの小論にクルーグマンが早速毒を吐いている
以下はその冒頭部。

Olivier Blanchard has a characteristically informed, lucid essay on the role of DSGE models in macroeconomics, in which he accurately describes the problems with these models but – again characteristically – tries to make peace with both sides, calling for reform of this dominant paradigm rather than tossing the whole thing. I understand his motivations. But what strikes me is just how sad a portrait he offers of the state of macroeconomic theory.
Here’s how I would approach the issue: by asking how we know that a modeling approach is truly useful. The answer, I’d suggest, is that we look for surprising successful predictions. General relativity got its big boost when light did, in fact, bend as predicted. The theory of a natural rate of unemployment got a big boost when the Phillips curve turned into clockwise spirals, as predicted, during the stagflation of the 1970s.
(拙訳)
オリビエ・ブランシャールが、マクロ経済学におけるDSGEの役割について、彼らしく情報に溢れた分かりやすい小論を書いている。そこで彼はDSGEモデルの問題を正確に描写しているが、やはり彼らしく、賛成派と反対派の両陣営を和解させようと、すべてを捨て去るのではなく、主流となっているこのパラダイムを改革することを呼び掛けている。私は彼の動機は理解するが、むしろ彼が描くマクロ経済理論の現状のあまりの侘しさに驚く。
私がこの問題に取り組むやり方は、あるモデル化の手法が本当に有用かどうかをどのようにして知るのか、と問うことだ。その答えは、驚くほど成功する予言があるかどうかだ、と私は言いたい。一般相対性理論は、光が予言通りに実際に曲がった時、表舞台に駆け上がった。自然失業率の理論は、1970年代のスタグフレーション期にフィリップス曲線が予言通りに時計回りに回った時、表舞台に駆け上がった。


この後クルーグマンは、(いつものごとく)自分が依拠していたIS-LMモデルの予測が近年において如何に正しかったかを強調した上で、DSGEに矛先を向ける。

Those of us who knew our Hicks, directly or indirectly, seem to have had a real advantage over those who didn’t.
Can you say anything comparable about DSGE? Were there any interesting predictions from DSGE models that were validated by events? If there were, I’m not aware of it.
Yet even while failing to offer any measurable gains in insight, DSGE had the effect of crowding out the stuff that actually did work.
(拙訳)
直接的にせよ間接的にせよヒックスを習得していた者は、習得していなかった者よりも大きなアドバンテージを得ていた。
それと同様のことがDSGEについて言えるだろうか? 実際の出来事によって実証されたDSGEモデルからの興味深い予言はあっただろうか? あったとしても、私は知らない。
しかも、洞察について認知できるような利得を何ら提供しない一方で、DSGEは、実際に機能するモデルをクラウドアウトするという副作用をもたらした。

そして、ブランシャールが紹介した

ブランシャール自身、討論者として、DSGE論文の基本的な洞察を一枚の単純なグラフという形で著者よりも分かりやすく提示することが良くある。

というエピソードについて、そうした提示はそもそも著者には許されておらず、それはDSGEがアドホックモデルの代替になっている、ないしアドホックモデルを阻止していることを意味している、と指弾している。多くの論文ではブランシャールが提示するような分かりやすい考察は付いておらず、それは大いなる損失とコストをもたらしている、とクルーグマンは嘆く。

また、マクロ経済学の分析のコアを提供する、というブランシャールのDSGE観については、若い時に聞いたマルクス経済学の擁護論――正しいかどうかはともかく枠組みを提供するのだ、という主張――を思い出す、と揶揄している。