ブランシャールの小論に始まるDSGE論争、就中12日に紹介したクルーグマンのエントリに、ジョージ・エバンス(George Evans)が表題のEconomist's Viewエントリ(原題は「What's Useful about DSGE Models?」)で反応し、DSGE*1の特長として以下の4点を挙げている。
- 価格摩擦を取り込みつつ注意深く展開されたミクロ的基礎付けを持つモデルなので、きちんとした枠組みの中で各種の拡張(様々な部門、捻り、調整コスト、細部を表すパラメータの追加)が可能
- 将来の経済変数に関する予想に明確かつ中心的な役割を与えている
- 標準的な線形化された生産、インフレ、金利の3方程式モデルでは、現在の生産とインフレが、ある決まった形で、将来の生産とインフレに依存している。
- 生産は、将来の生産とインフレに、家計の動学的最適化条件を通じて依存している。
- インフレは、将来のインフレに、企業の最適価格付け方程式を通じて依存している。
- 即ち、DSGEモデルでは将来の経済変数に対する予想をモデルの中心に据えており、しかもきちんとした枠組みの中でそうしている。
- 標準的な線形化された生産、インフレ、金利の3方程式モデルでは、現在の生産とインフレが、ある決まった形で、将来の生産とインフレに依存している。
- DSGEは通常は合理的期待の下で解かれるが、合理的期待仮説の仮定を緩めた系を調べる際の一時的な均衡の枠組みを提供している、という見方もできる
- 金融危機の最中およびその後の政策に関するDSGEの含意を理解するのに経済学界は手間取ったように見えたが、それはDSGEの欠点のせいではない
- それは、2007-8時点でDSGEを用いていたマクロ経済学者の多くが、モデルのケインズ経済学的なメカニズムを十分に認識していなかったためと考えられる。
- DSGEの大半(すべてではない)において欠如していた金融摩擦は、教科書的なIS-LMモデルの大半でも欠如していた。
- 一方、2008年にEuropean Economic Reviewに掲載されたEvans=Guse=Honkapohjaの「Liquidity traps, learning and stagnation」*2では、流動性の罠の下で複数の合理的期待解を持つDSGEモデルにALを当てはめ、予想に対し非常に大きな負のショックがあった場合には、金融だけでなく財政刺激策が必要になり、十分に大きくて早期の財政刺激策は深刻な景気後退ないし恐慌を回避する上で極めて重要になる、と論じた。
エバンスは、以上の特長を挙げた後に、DSGEだけが唯一無二のモデルと考えるべきではなく、多様なモデルが存在することが重要、と述べてエントリを締め括っている。