ダグラス・アーウィン(Douglas Irwin)ダートマス大学経済学部教授の下記の本をMostly Economicsが取り上げている。

Peddling Protectionism: Smoot-Hawley and the Great Depression
- 作者: Douglas A. Irwin
- 出版社/メーカー: Princeton Univ Pr
- 発売日: 2011/01/24
- メディア: ハードカバー
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Mostly Economicsによる同書のまとめは以下の通り。
- スムート・ホーリー法は景気後退に対応したものでは無かった。それは政治的打算と農業部門支援のために起草された。当時農業部門の状況は悪く、法案の当初の目的は農業関係の関税を上げることにあった。また、法案は、一般に思われているように恐慌の最中に提出されたわけではなく、景気が頂点に達していた時に提出された。
- 法案の最終過程では通例通り時間が掛かり、成立する頃には製造業の項目が付け加わっていた。自分の分野の項目を付け加えるために、ロビー活動や裏取引が活発に行われた。
- 法案が施行される頃には、恐慌の条件が整いつつあった。米国の動きを見て他国の政策当局者も関税を引き上げ、問題は悪化した。即ち、スムート・ホーリー法が国際的な反応を招いたことは確かである。
- 経済学者たちは法案に反対したが、それにも関わらず成立した。このことは、政治家が、選挙に勝つためのことならば経済学を無視してでも実行する、という一般則のさらなる例証になっている。
- 法案の失敗は、米国での政策決定過程に変化をもたらした。議会は貿易政策に関与しなくなり、貿易政策問題は大統領の管轄事項となった。
Mostly Economicsでは、この本の他の書評としてエコノミスト誌、EH.net、ロジャー・ローウェンスタインにリンクしている。また、本の冒頭部分がここで読めることを紹介しているほか、ケイトー研究所での著者講演のビデオにもリンクしている*1。さらに、スムート・ホーリーが大恐慌のトリガーでは無かった、というアーウィンの主張が、既に2年前のアイケングリーンとの共著論文に記されていたことを当時の自ブログエントリを引きながら紹介している*2。
なお、大恐慌の直接的な原因では無かったからと言って、アーウィンはスムート・ホーリー法を無罪放免しているわけでは無く、その保護主義的な性格は非難に値する、としている。Mostly Economicsは、保護主義から政治家を遠ざけたことがこの法案の唯一の功績ではないか――今回の危機で各国が保護主義に走っていたらどんな混乱に陥っていたことか――と書いている。
*1:ケイトー研究所での講演では、司会者が、アーウィンの講演が始まる前に、スムート・ホーリー法の経済への悪影響という認識がいかに米国に浸透しているかの例証として、2つのビデオクリップを流している。一つは、この映画での(今やリベラル派の天敵の一人となった)ベン・スタインのスムート・ホーリー法に関する講義シーンであり、もう一つは、ラリー・キング・ライブでのNAFTAを巡る討論でアル・ゴアがスムート・ホーリー法を持ち出してロス・ペローを攻撃した一幕である。その後に登場したアーウィンは、映画でのベン・スタインの台詞はアドリブだった、というエピソードを紹介している。
*2:両者は論文に関する共著論説をvoxeuにも書いている。また、昨年10月の両者のProject Syndicate論説はここで邦訳されている。