ミネアポリス連銀の表題の論文が一部で話題になっていたので、以下に要旨を訳出してみる。論文の原題は「Health versus Wealth: On the Distributional Effects of Controlling a Pandemic」で、著者はAndrew Glover(カンザスシティ連銀)、Jonathan Heathcote(ミネアポリス連銀)、Dirk Krueger(ペンシルベニア大)、José-Víctor Ríos-Rull(同)。
To slow the spread of COVID-19, many countries are shutting down non-essential sectors of the economy. Older individuals have the most to gain from slowing virus diffusion. Younger workers in sectors that are shuttered have the most to lose. In this paper, we build a model in which economic activity and disease progression are jointly determined. Individuals differ by age (young and retired), by sector (basic and luxury), and by health status. Disease transmission occurs in the workplace, in consumption activities, at home, and in hospitals. We study the optimal economic mitigation policy of a utilitarian government that can redistribute across individuals, but where such redistribution is costly. We show that optimal redistribution and mitigation policies interact, and reflect a compromise between the strongly diverging preferred policy paths of different subgroups of the population. We find that the shutdown in place on April 12 is too extensive, but that a partial shutdown should remain in place through July.
(拙訳)
COVID-19の拡大を鈍化させるため、多くの国が経済の非基本部門を閉鎖している。ウイルスの拡大の鈍化からは高齢者が最も得をする。閉鎖される部門の若い労働者が最も損をする。本稿では、経済活動と疾病拡大が同時決定されるモデルを構築した。個人は、年齢(若年者と退職者)、部門(必需品部門と贅沢品部門)、健康状態で分かれている。病気の感染は職場、消費活動、家、および病院で起きる。我々は、功利主義的な政府の最適な経済抑制政策を研究した。政府は個人間の再分配を実施できるが、そうした再分配にはコストが掛かる。最適な再分配政策と経済抑制政策は相互に影響し、それぞれが大きく異なる政策経路を選好する国内の相異なる集団の妥協の産物となる。我々は、4月12日時点で実施されている閉鎖措置は範囲が広過ぎるが、部分的な閉鎖を7月まで続けるべきであることを見い出した。
以下は論文本文で示されている最適政策の図。左側が再分配にコストが掛かる場合、右側がコストが掛からない場合の図で、赤が高齢者、黄色が贅沢品部門労働者、紫が必需品部門労働者、青が功利主義政府の選好する政策である。横軸は時間軸で、4月12日をシミュレーション開始日としている。縦軸は贅沢品部門の抑制(閉鎖)割合で、4月12日時点の実際の政策では閉鎖率が0.5になっていると論文では想定している。従って、このシミュレーション結果では、老人の選好でさえもそれよりは緩やかなものとなる。なお、右側の図では両部門の労働者の差が殆ど無くなっているが、これは無コストの再分配により両者の消費が一致するためである。