5日エントリで紹介したWerningのアセモグルらとの共著論文解説では、統計的生命価値(VSL)を定めることを回避していた。一方、前回エントリで紹介したミネアポリス連銀論文では、VSLの決定がモデルの中で重要な役割を果たしている。
VSLについて、ググって見つけたこちらの論文*1を引用する形で簡単に解説すると、以下のようになる。
1期VSLモデルにおいては、個人は以下の効用を最大化しようとする*2。
V ≡ pu(w) + (1 − p)v(w) (1)
ここでpは当期を生き抜く確率, u(w)は当期を生き抜いた場合の富wの効用、v(w)は当期に死んだ場合の富wの効用(遺贈の効用)である。uとvは2次微分可能であるとし、以下の関係が成り立つものとする。
u > v, u' > v' ≥ 0, u'' ≤ 0 and v'' ≤ 0. (2)
この時、VSLは、富と生き抜く確率との限界代替率として以下の式で定義される*3。
VSL ≡ −dw/dp = {u(w) − v(w)} / {pu'(w) + (1 − p)v'(w)} (5)
これは、
のそれぞれにおいて、死亡リスクの変化についてゼロの極限を取ったものとなる(下図参照)。
ミネアポリス論文では、このVSLをやや天下りの形で定めている。具体的には、環境保護局と運輸省の1150万ドルというVSLの推計値を、3%という割引率と平均余命37年という年数で年次のフロー値に分解し、1年あたり51.5万ドルという値に変換している*4。そしてそれが一人当たり消費の11.4倍に相当することから、以降は11.4cをVSLとして定義している(cは消費)。
また、効用については、富ではなく消費の関数としている。上記の死亡した場合の効用v(w)はゼロとし、u(w)はln(c)+uとして定義している。即ち、消費の対数効用関数と、生き抜くことそのものの効用uとの和として定義している。また、生き抜く確率pの代わりに死亡確率rを用いている(定義よりr=1-pとなる)。そのため、上の(5)式はミネアポリス論文では以下の形で表される。
VSL ≡ dc/dr = {ln(c)+u} / {(1-r)/c}
さらに、r=0の時のVSLが上で天下り式に定めた値に等しいものとしている。即ち、
{ln(c)+u}c = 11.4c
これから、生き抜くことそのものの効用は u=11.4-ln(c) である、としている。
その上で、1%の死亡リスクが無差別になる消費の減少割合mを
ln(c(1-m))+11.4-ln(c) = 0.99(ln(c)+11.4-ln(c))
の式から求められる、としている。実際に解くと、m = 1 - exp(-0.01*11.4) = 10.8%となる。