効用関数に資産を入れたニューケインジアンモデル

というNBER論文をサエズらが書いている。原題は「A New Keynesian Model with Wealth in the Utility Function」で、著者はPascal Michaillat(ブラウン大)、Emmanuel Saez(UCバークレー)。
以下はその要旨。

This paper extends the New Keynesian model by introducing wealth, in the form of government bonds, into the utility function. The extension modifies the Euler equation: in steady state the real interest rate is negatively related to consumption instead of being constant, equal to the time discount rate. Thus, when the marginal utility of wealth is large enough, the dynamical system representing the equilibrium is a source not only in normal times but also at the zero lower bound. This property eliminates the zero-lower-bound anomalies of the New Keynesian model, such as explosive output and inflation, and forward-guidance puzzle.
(拙訳)
本稿は、ニューケインジアンモデルを拡張し、資産を国債という形で効用関数に導入する。この拡張ではオイラー方程式を修正し、定常状態の実質金利は、時間割引率に等しい一定値ではなく、消費と負の相関を持つようになる。従って、資産の限界効用が十分に大きければ、均衡を表す動学系は通常時だけでなくゼロ金利下限においても湧点となる。この特性は、生産とインフレの発散やフォワドガイダンスパズルなどのニューケインジアンモデルのゼロ金利下限アノマリーを除去する。

以下はungated版の図。

ここでπはインフレ率、yは生産、ynは生産の自然水準(価格が完全に伸縮的な時の生産水準)、rnは自然利子率、[yz,πz]はゼロ金利下限の定常状態。
ニューケインジアンモデルでは資産の限界効用は無い。即ち、u'(0)=0。
効用関数に資産を入れたニューケインジアンモデル(WUNKモデル)では資産の限界効用は十分に大きい。即ち、u'(0) > ε/(δγa) (εは財の代替の弾力性、δは時間割引率、γは価格変化のコストのパラメータ(価格が完全に伸縮的な時はγ=0)、aは労働の限界生産力)。
通常時はrn>0で、金融政策はi=rn+φπで表される。φ>1の時金融政策は積極的、φ<1の時は消極的である。
ゼロ金利下限では、rn<0で、金融政策はi=0となる。


パネルAは、通常時で金融政策が積極的な場合、ニューケインジアンモデルの均衡系は湧点であることを示している。
パネルBとDは、通常時でもゼロ金利下限時でもWUNKモデルの均衡系は湧点であることを示している。
以上の3つのパネルでは、均衡は確定的で、定常状態にジャンプしてそこに留まる軌跡のみが均衡となる。
パネルCは、ニューケインジアンモデルの均衡系はゼロ金利下限では鞍点であることを示している。従って、鞍点経路にジャンプして定常状態に収束する軌跡はすべて均衡となるため、均衡は不定となる。