ミニマム課税の評価

というNBER論文が上がっている。原題は「Evaluating Minimum Taxation」で、著者はJames R. Hines Jr.(ミシガン大)。
以下はその要旨。

Minimum tax rules constrain only the lowest-tax jurisdictions. Because higher minimum tax rates expand the circle of affected countries and therefore the impact of any further changes, there can be dominated regions over which no parameter values would make a minimum tax efficient. Applying a Taylor approximation to the distribution of statutory corporate tax rates in 2020, the range 4%-27% is a dominated region: there may be an efficient minimum rate below 4%, or higher than 27%, but there is no efficient world minimum tax rate between 4% and 27%. Minimum taxes set at popular rates are particularly inefficient – a minimum tax rate of 15% yields value that, when positive, is equivalent to offsetting less than one percent of the effect of tax competition.
(拙訳)
ミニマム課税ルール*1は、税率の水準が最も低い管轄区域のみ制約する。最低税率の引き上げは影響を受ける国の範囲を拡大し、それによってさらなる変更の影響も拡大するため、どんな税率の値でもミニマム課税を効率的なものとしない支配的な領域が存在する。2020年の法定法人税率の分布にテイラー近似を適用したところ、4-27%が支配的な領域であった。即ち、4%以下、もしくは27%以上では効率的な最低税率が存在するかもしれないが、4%と27%の間には効率的なグローバルミニマム課税の税率は存在しない。一般的な税率で設定された最低税率は特に非効率である。15%の最低税率は、プラスだとしても租税競争の影響の1%未満しか相殺しない価値しかもたらさない。

税制調和の評価 - himaginary’s diaryで紹介した同じ著者の論文では、法人税率の違いには国ごとの各種事情の違いから生じる自然な違いがあるため、租税競争によってその標準偏差を超えた引き下げが平均的に生じる場合のみ最低税率は効率的である、と論じていた。今回の論文はその研究の延長ないし改訂版と思われるが、ミニマム課税を推進する人々にどの程度説得力を持つ研究なのか知りたいところではある(ざっとググった限りでは反応はあまり見られなかった。James R. Hines Jr. - Wikipediaによるとこの人はタックスヘイブンの研究が有名で、そちらの研究は参照されると同時に、一部の主張は論争の的となっているとの由)。