というNBER論文が上がっている(ungated版へのリンクがある著者の一人のページ)。原題は「The ECB’s Climate Activities and Public Trust」で、著者はSandra Eickmeier(独連銀)、Luba Petersen(サイモン・フレーザー大)*1。
以下はその要旨。
As central banks, including the European Central Bank (ECB), adopt climate-related responsibilities, gauging public support becomes essential. Drawing on a June 2023 Bundesbank household survey, we find that 69% of households report increased trust in the ECB due to its climate actions, valuing the institution's broader scope and concern. While 17% and 20% of households express concerns over risks to price stability or independence, 23% believe climate engagement reinforces the ECB's core objectives. An information intervention indicates minimal impact on household inflation expectations, suggesting a disconnect between institutional trust and inflation outlooks. An internal survey reveals that central bankers accurately gauge trust impacts but tend to overestimate effects on inflation expectations. Overall, our findings indicate broad public support for the ECB’s climate initiatives.
(拙訳)
欧州中央銀行などの中銀が気候関係の責務を引き受けるにつれ、一般の支持を測ることが重要になっている。2023年6月のドイツ連邦銀行の家計調査に基づき我々は、家計の69%がECBの気候関連の行動により同行への信頼を増した、と報告し、同行が視野と懸念の対象を広げたことを評価したことを見い出した。17%と20%の家計が物価安定へのリスクや独立性への懸念を表明したものの、23%が気候関連の活動がECBの中核的な目的を強化すると考えていた。情報処置は家計のインフレ予想への影響が最低限に留まることを示し、同行への信頼とインフレ見通しが分断していることを示唆した。行内調査は、中央銀行家が信頼への影響を正しく捉えているが、インフレ予想への影響を過大評価していることを明らかにした。総じて我々の発見は、ECBの気候変動問題のイニシアチブへの幅広い一般の支持を示している。
本文によると、家計調査はオンラインで月次に行われているものとのことで、ECBの気候関連の活動については2023年6月(Wave 42と呼称)調査で質問したとの由。対象は4,151家計で、うち500がその月に新たに調査に加わった家計との由。
中央銀行が環境問題に手を出すのは無理筋だ ラガルドECB総裁はやはり政治的すぎるのか | 市場観測 | 東洋経済オンラインの唐鎌大輔氏やECBが気候変動へのコミットを検討、環境問題は中銀の仕事なのか | DOL特別レポート | ダイヤモンド・オンラインの土田陽介のように、4~5年前の日本のエコノミストの一部はECBが気候問題に乗り出したことに懐疑的な姿勢を示していた半面、門間一夫氏のように中銀への信頼を確保するために対象分野を広げることに理解を示していたエコノミストもあったが*2、この研究によればドイツではECBへの支持が着実に広がっているようである。ドイツ以外のユーロ圏の国の世論がどうなっているかも知りたいところではある。
*1:中銀の信認への包括的なアプローチに向けて - himaginary’s diaryで紹介した論文の著者に同じ。
*2:門間氏は同時に、足元ではECBとブンデスバンクに温度差があるのではないか、と指摘しつつも、それも折り合いがついていくのではないか、という見方を示していた。