トランプ減税案のハセットCEA委員長による売り込みに手厳しい批判を繰り広げたサマーズが、ではどのような税制改革なら支持するのか、と訊かれ、1986年の税制改革をモデルケースとして挙げている。サマーズによれば、その改革によって経済成長が促進され、経済の効率が高まった一方で、歳入と分配については中立だったという。徹底的な税制改革や、炭素税や付加価値税を考えるならばともかく、現行の税制への現実的な代替策を考えるならば、1986年の改革の5つのポイントが重要となる、とサマーズは言う。
- 税率は下げるが歳入は下げない
- 1986年改革の中心的な原則は、税率の引き下げは税基盤の拡大(不動産や医療の税控除や、企業の減価償却の縮減)によって賄い、財政赤字は拡大させない、ということだった。
- サマーズはこれまで経済回復のための財政拡大を主唱してきたが、失業率が4%以下に低下しFRBが金融引き締めに転じた今となっては、長期の財政赤字を増やすべきではない。財政赤字の拡大は貿易赤字の拡大を意味し、政府の経費が増え、次の不況への対応余地が狭まる。
- 海外への税回避を制限して課税対象の企業を拡大する
- 企業がアイルランドやケイマン諸島に移転して利益への課税を逃れることを許せば、歳入は失われ、経済は傷付く。米国での商売や研究開発や政策によって潤っている企業は、海外所得の15〜20%を最低限支払うべき。
- 財務省は議会と共同で、移転価格の悪用や、実体の無い税回避を防ぐ措置を講じるべき。
- 投資や資金調達手段についての中立性を高める
- 現在の税制は、債務への利払いが控除可能である一方で配当支払いはそうではないため、レバレッジを促す。また、減価償却期間が異なる投資についての偏りも存在する。
- 債務が株式と同様のリスクプレミアムを有するプライベートエクイティの多くの取引について金利の控除を制限すれば、歳入と金融の安定性が増す。
- 費用化できる投資の範囲を増やせば、投資へのディスインセンティブが減り、投資の効率性が増す。
- 税金逃れを掣肘する
- 1986年の税制改革の大きなきっかけは、企業が10K(=米国版有価証券報告書)上は多額の株主利益を上げつつ税金を支払っていない、という話だった。少なくとも公開企業は、決算書類の所得と課税所得との違いを公けに説明するように内国歳入庁が義務付けるべき。
- 株主所得への10%の最低税も要検討。
- キャリード・インタレスト*1、非課税の不動産の同種交換取引*2、オプションによる役員報酬の特別措置といったそれ以外の税金逃れの手段も、縮減もしくは廃止すべき。
- 非法人企業への特別措置を廃止する
- 現在、パススルーは、配当とキャピタルゲインへの税を考慮すると、税率が法人企業よりも低くなっている。政権案におけるいわゆるパススルー団体の扱いは未だ明らかになっていないが、税制上優遇してしまうと、法律事務所のパートナーや合併アドバイザーや経営コンサルタントや経済顧問に対し、正当化し得ない補助金を提供することになる。正しいアプローチはその逆で、手広く商売している企業には法人化を義務付けるべき。それによって歳入は増加し、公平性も高まり、実体経済と実体の無い経済の区別を考えた場合、後者への補助金を無くすことになる。
サマーズは、こうした措置を講じれば、法人税率を20%台後半まで下げても、国内生産のインセンティブの拡大や資本の配分の効率化により、経済は2%ほど拡大するのではないか、と推測している。