東京財団が消費税シミュレーションツールを公開し、やや炎上気味に話題になっている。指摘されている問題点の一つは、消費税率を動かしても成長率に影響しない点である。批判者はそれは現実的ではないと言い、擁護者はそもそもこのモデルにそうした動作を求めるのは蕎麦屋でラーメンを求めるが如く筋違いだと言う。
財政政策と実体経済とのフィードバック関係に関する最近の理論としては、本ブログでも何度か取り上げているデロング=サマーズの研究がある*1。東京財団のモデルはフリーソフトのRで動く上に、ソースが公開されているため、修正が可能となっている。そこで、取りあえず3/21エントリでデロング=サマーズを基に考えたような税率変更から実質成長率への影響を、quick and dirtyな形で取り込んでみた。
具体的には、prj_m_.rの「実質GDP成長率 伸長」のブロックを以下のように変更してみた(最後の2行が追加行)*2。
## 実質GDP成長率 伸長 base$M_GDP_R_GR = dexpd(base$M_GDP_R_GR_T,(base$M_TFP_GR)/(1-M_BUNPAI)+base$M_POP_15_64_GR,2013) base$M_GDP_R_GR = intrpl(base$M_GDP_R_GR,2013,2018) base$M_GDP_R_GR2 = base$M_GDP_R_GR - (base$F_DLT-lag(base$F_DLT,k=-1))*0.2 - base$F_DLT*0.07 base$M_GDP_R_GR = base$M_GDP_R_GR2
ここでは、消費税率が前年に比べ引き上げられると、乗数効果で当年の成長率に影響するとしている。また、そうした一時的な影響とは別に、消費税率の初期値からの変化に比例して成長率もベースラインから下がるとしている(ただしラッファー効果は値が小さい割に定式化がやや面倒なので省略)。なお、乗数や比例係数の値は3/21エントリの数字を基にしている。
「消費税率の再増税幅」を15%とした場合の結果を、修正前後で比較してみると以下のようになる。
修正後のモデルでは、実質成長率は消費税率引き上げ時にマイナスに落ち込み、その後も元のモデルより1%ポイント強低い成長率で推移する。その結果、実質GDPの水準も差が開いていき、2050年時点で元のモデルの65%の水準に留まる。また、プライマリーバランスは、元のモデルでは2050年まで5〜10兆円の範囲でプラスを続けるのに対し、修正後は2040年にマイナスに戻ってしまう。
あくまでもquick and dirtyな修正である点には注意を要するが、少なくとも消費税率を動かしても成長率が微動だにしない状態よりは現実感が増したのではないだろうか。