少し前のWaPo論説でトランプ大統領の可能性が経済にもたらす脅威について警告したサマーズが、表題の論説記事で改めてその危険性を力説している(H/T マンキューブログ。原題は「The economic consequences of a Trump win would be severe」。なお、これはFT論説記事のタイトルだが、同内容と思しきWaPo論説記事のタイトルは「Trump is a much worse threat than Brexit」となっている)。
記事の中でサマーズは、市場がその危険性に対しやや無頓着に見えることに危機感を募らせている。
What I find surprising is that US and global markets and financial policymakers seem much less sensitive to “Trump risk” than they are to “Brexit risk”. Options markets suggest only modestly elevated volatility in the period leading up to the presidential election. While every Fed watcher comments on the implications of Brexit for the central bank, few, if any, comment on the possible consequences of a victory for Mr Trump in November.
Yet, as great as the risks of Brexit are to the British economy, I believe the risks to the US and global economies of Mr Trump’s election as president are far greater. If he is elected, I would expect a protracted recession to begin within 18 months. The damage would be felt far beyond the United States.
(拙訳)
私が驚いているのは、米国と世界の市場、および金融政策担当者が、「ブレグジット・リスク」に対するのに比べて「トランプ・リスク」に対してかなり鈍感に見えることである。オプション市場が示すところによれば、大統領選までの期間におけるボラティリティは小幅にしか上昇しない。FRBウオッチャーの誰しもが、ブレグジットが中銀にとって意味することについてコメントするが、11月にトランプ氏が勝利した際に起こり得る帰結についてコメントする者はほとんどいない。
確かにブレグジットは英国経済にとって大きなリスクではあるが、私が思うに、トランプ氏が大統領に選出されることの米国および世界経済にとってのリスクの方が遥かに大きい。彼が選出されたならば、長引く景気後退が18ヶ月以内に始まる、と私は思う。その悪影響は米国を超えて大きく広がるだろう。
その上でサマーズは、具体的なリスクとして以下の5点を挙げている。
- 政策を誤るリスク
- トランプ氏が提起した10兆ドル以上の減税という案は、米国の財政の安定性を脅かす。
- 破産した不動産開発業者同然の手法で米国が債務再編を行う、という案もあった。
- これらは選挙運動のレトリックに過ぎないのかもしれないが、歴史の研究が示すところによれば、大統領は主要な選挙公約を果たす傾向にある。
- 2011年の債務上限引き上げを巡る暗闘(参加者の誰もが債務不履行の危険性を認識していた)は、株式が17%下落する主因となった。
- 経済のナショナリズムの危険性
- 地政学リスクの高まり
- 企業の信頼感の低下
- 不確実性と信頼感の問題
- 企業の信頼感を改善することは最も安上がりな刺激策である。
- 法治主義、国際主義、および政策の一貫性に対して簡単に手出しできる環境を作ることは、依然として脆弱な米経済を損なう早道である。
- 自分が経験した選挙で、主要政党の大統領候補が経済にとってこれほどまで危険だったことはかつて無い。
サマーズは、以下の言葉で論説を結んでいる。
Markets are discounting the possibility of a Trump presidency. Let us all pray they are right.
(拙訳)
市場はトランプ大統領の可能性を軽視している。彼らが正しいことを皆で祈ろう。