法人減税とサマーズとマンキュー

昨日紹介したマンキューのブログエントリに、サマーズも反応している

As a device for motivating students to learn how to manipulate oversimplified academic models, Mankiw’s blog is terrific as one would expect from an outstanding economist and one of the leading textbook authors of his generation. As a guide to the effects of the Trump administration’s tax cut, I do not think it is very helpful for three important reasons.
(拙訳)
マンキューのブログは、過度に単純化された学界モデルの操作法の学習を学生に促す仕組みとしては、傑出した経済学者かつ同世代の代表的な教科書の執筆者の一人に人々が期待する通りの素晴らしいものである。トランプ政権の減税の効果の指針としては、3つの重要な理由によってそれはあまり有用ではない。

その3つの理由とは以下の通り。

  1. 投資税額控除がかなりの程度ないし全額認められている場合、法人税率を35%から20%に引き下げることは、投資インセンティブにほとんど影響しない。例えば投資費用が全額控除されて投資利益に全額課税される場合、税率は投資インセンティブに全く影響しない。(全額控除である)トランプ案の下においてさえそうなるであるように投資の一部が控除可能な利子によって賄われるならば、法人税率の引き下げは容易に投資インセンティブを下げるものとなる*1
  2. ラムゼイモデルも小国開放経済モデルも現実世界の良い近似ではない。ラムゼイモデルでは貯蓄の弾力性は無限大なので、実質金利は常にある一定水準に戻る。実際には、実質金利は時間的にも空間的にも大きく変動する。また、幾世代も積み重ねられてきた経済研究は、貯蓄率は金利に無限の感応度を持つどころか金利にほとんど無感応であることを示している。そして、米国は小国開放経済ではない。もしそうならば、効果的な投資インセンティブ貿易赤字を大きく拡大することになる。というのは、資本の流入によって必然的に輸入が輸出を超過するからである。それはトランプ大統領が米国の労働者にとって良いと思うことではないだろう。
  3. 法人税率の大幅な引き下げは、新規投資のきっかけにはなるだけには留まらない。マンキューのモデルは、独占的利益や知的資本の収益など、法人減税が投資を促すことなしに株主を潤す可能性を考慮していない。法人減税は、他の税金の増税財政赤字の拡大のいずれかにつながるが、いずれも家計にはマイナスである。また、資本が非企業部門から企業部門に移動することになるが、それは非企業部門の労働者を傷付けることになる。

*1:cf. ここで示したように、タックス・シールドを考慮すると税率の減少が資本コストの上昇をもたらす。なお、そこで行った分析では投資税額控除を考慮しておらず、税率の減少は利益を上昇させるのでトータルでは常に企業価値は上昇する、という結果を示したが、投資税額控除によって税率が利益に影響しない場合は、資本コストの悪影響だけが残ることになる。