26日に紹介したサマーズのムニューシン発言に対する批判に対し、FT AlphavilleのMatthew C KleinとCEPRのディーン・ベーカーが異を唱えている(H/T 本石町日記さんツイート)。
Matthew C Kleinは以下のように書いている。
Larry Summers called it a “problematic statement”, criticised Mnuchin’s “style”, and then proceeded to lecture Mnuchin that depreciation “means higher-priced imports and, therefore, less purchasing power for American incomes”.
The Wall Street Journal‘s editorial board, not normally known for being on the same page as Summers, also criticised Mnuchin:A weak dollar makes the U.S. worse off because Americans don’t live in an economic bubble. They buy from abroad because other countries make things Americans want or need…Commodities like oil and copper are traded in dollars so a weak dollar requires more of them. This is good for dictators in places like Venezuela. For Americans, not so much.
Neither Summers nor the WSJ mentioned that the boost to purchasing power from an expensive currency is associated with a decline in savings necessary to offset the decrease in incomes caused by falling export revenues and the replacement of domestic production with cheaper imports. The right balance depends on circumstances and social preferences.
If “strong” currencies were so desirable, presumably other countries would want them. Yet this is not the case.
(拙訳)
ラリー・サマーズはそれを「問題のある発言」と呼び、ムニューシンの「スタイル」を批判し、それからムニューシンに、減価は「輸入価格を高め、それによって米国人の所得の購買力を低める」と説いた。
ウォールストリートジャーナルの編集委員会は、普段はサマーズと意見と同じくすることはないが、やはりムニューシンを批判した:米国人は経済バブルの中にはいないため、弱いドルは米国の状況を悪化させる。他国が米国人の欲しいないし必要なものを作っているため、米国人は海外から購入する。石油や銅のような商品はドル建てで取引されるので、ドルが弱いとより多くのドルが必要になる。これはベネズエラのような国の独裁者にとっては良いことだが、米国人にとってはそれほど良いことではない。
サマーズもWSJも、通貨の増価による購買力の上昇は、輸出収益の低下と安価な輸入による国内生産の代替がもたらす所得の低下を補うため貯蓄の低下につながる、ということに触れていない。正しいバランスは、状況と社会的選好に依存する。
もし「強い」通貨がそれほど望ましいものならば、他国もそれを望むはずである。しかし実際にはそうではない。
この後Kleinは、ユーロが1年前より5.5%高いに過ぎず、過去10年間の大半より依然として安い一方で、ドルが2014年半ばよりなお15%高いことを指摘している。そして、最近のドル安はムニューシンのせいというよりは、そうした過去の行き過ぎの是正か、もしくは米国の長期的な成長見通しが相対的に欧州よりも悪化したためではないか、という推測を述べている。
一方、ベーカーは以下のように書いている。
With fewer imports and more exports, we have a smaller trade deficit. It's all pretty straightforward. But for some reason, Mnuchin's comments prompted widespread outrage, with former Treasury Secretary Larry Summers leading the charge.
For the most part, the complaints don't make much sense (yeah, a lower-valued dollar raises the price of imports — that's the point), but one of the central lines seems to be the idea that the Treasury Secretary is not supposed to try to talk down the value of the dollar. I'm not sure where that appears in the Constitution, but others have violated this sacred principle.
(拙訳)
輸入が減り輸出が増えれば、貿易赤字は縮小する。これは極めて素直な話である。しかしなぜかムニューシンのコメントは各所で反発を招き、元財務長官のラリー・サマーズが批判の先頭に立っている。
批判は概ね的外れだが(確かにドルの低下は輸入価格を上げるが、それこそがポイントなのだ)、主要な批判の一つは、財務長官はドルの価値を下げようとする発言をするものではない、という話のようである。それが憲法のどこに書かれているか知らないが、他の財務長官もこの聖なる原則に違反してきた。
ここでベーカーは、ロイド・ベンツェンのドル安誘導や、ジェームズ・ベーカーのプラザ合意を例に挙げ、
In short, the idea that the Treasury secretary has some obligation to blather about the virtues of a "strong dollar" has no basis in either economics or history.
(拙訳)
要するに、財務長官には「強いドル」の長所について喋々すべき何らかの義務がある、という考えには、経済学的にも歴史的にも根拠が無い。
とサマーズの考えを一蹴している。
この後ベーカーは、巨額の貿易赤字が米国の職を奪ったが*1、ドルの過大評価がその最大の要因であったこと、ドル高問題はサマーズの前任者のルービンがベンツェンの政策を反転したのが始まりであること、ルービンと軌を一にするIMFのアジア危機への厳しい対応策によって発展途上国は自国通貨安と貿易黒字を志向するようになったが、本来はそうした国は貿易赤字を計上して資本を海外から受け入れて成長するのが教科書的にも実際上も正しい姿であったこと、および、それらの国がそうしなかったため世界経済に需要不足(過剰貯蓄、長期停滞)という不均衡が生じたこと、を指摘している。
ベーカーは記事を以下のように結んでいる。
In short, Mnuchin was on the money in his comments about the dollar. His critics are either ignorant or dishonest. There are plenty of opportunities to attack the Trump Administration; this should not be one of them.
(拙訳)
まとめると、ムニューシンはドルについてのコメントで極めて正確であった。彼を批判する人は、無知か不誠実かのいずれかである。トランプ政権を攻撃すべき点は数多くあるが、これはその一つではあり得ない。