マイナスの実質金利へのマイナスの評価

サマーズの長期停滞論が話題を集めているが、アーノルド・クリングがサマーズの停滞論とタイラー・コーエンの停滞論の違いを以下のようにまとめている(H/T コーエン)。

Cowen’s stagnation story is that the pace of innovation has slowed, resulting in declining growth in aggregate supply. In contrast, Summers’ story is one of a permanent shortfall of aggregate demand, due to an excess of desired saving over desired investment, which can only be eliminated at a negative real interest rate.
(拙訳)
コーエンの停滞話は、イノベーションのペースが落ちて総供給の伸び率が低下する、というものだ。対照的にサマーズの話は、皆が欲する貯蓄が皆が欲する投資を上回ることによる総需要の恒久的な不足、というものだ。その貯蓄過剰は負の実質金利によってのみ削減することができる。


その上でクリングは、負の実質金利という考え方に以下の6つの疑問を寄せている。

  1. 完全雇用を成立させる実質金利がマイナスならば、量的緩和の必要性はどこにある? なぜ投資に比べて貯蓄が過剰なこと自体によって長期金利がゼロまで下がらない?
  2. サマーズは近年の完全雇用の達成は資産バブルによるとしている。しかし、負の実質金利の世界では、資産バブルは存在し得ない。その世界では実質資産の価値は無限大となるからだ。
  3. タイラーが指摘するように、正の経済成長率と負の実質金利を整合させるのは難しい。2008年以降でさえ経済成長率はプラスだった。
  4. これまたタイラーが指摘するように、リスク資産の金利は高くなる。サマーズやクルーグマンの言う低金利を理解したければ、保証に目を付けろ、というのが私の提案。米国政府は多くの投資に様々な形で保証を提供してきた。国債然り、不動産担保証券然り。
  5. 銀行のプライムレートは2001-2004年は平均5%で、2005-2008年は7%近く、2009-2012年は3.25%だった。一方、各期間の平均インフレ率はそれぞれ2.3%、3.4%、1.5%だった。従って、実質金利は常に正だった。
  6. サマーズによる長期停滞論の復活は、他の経済学者の査閲を十分に受けていない。経済学者の幅広い評価きぼんぬ。