賭け市場でのトランプの勝利確率を他の経済変数とともにVAR分析に掛けたドイツ連邦銀行の2人の研究者による表題のVoxEU記事をMostly Economicsが紹介している。原題は「What financial markets say about the economic implications of a potential Trump election victory」で、著者はSören Karau、Johannes Fischer。
世論調査ではなく賭け市場の結果を使うことでリアルタイムの分析ができ、それによって識別問題を克服できたとのことである。
以下はトランプのオッズが20%上昇した場合(勝利確率の5%ポイント上昇に相当との由)のインパルス応答の結果。
- ビットコインは3%以上上昇
- トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(DJT)の株価は10%近く上昇
- 米2年物金利は約5bp上昇
- S&P500は少なくとも当初にほぼ0.5%低下
- ユーロドル相場ではユーロが下落
- 米欧の2年物インフレスワップ金利はいずれも上昇し、4bp近くのピークを付ける
トランプが推奨するビットコインとトランプ銘柄の上昇は、識別が正しく行われている証左、と著者たちは述べている。
また、経済変数の反応については、市場参加者はトランプの勝利をどちらかと言えば総じて収縮的な供給面効果と結び付けている、と著者たちは解釈している。これは、関税引き上げ、移民追放というトランプの政策が、標準的なマクロ経済理論からすれば物価を上昇させ、潜在GDPの重荷になることと整合的な結果、と著者たちは言う。需要効果が支配的であれば、インフレ予想の上昇が広範な株価の上昇を伴っているはずだからである。また、2年物金利の上昇は、インフレ圧力の増加に対応した米金融引き締め予想と考えられる、との由。
一方、ユーロの下落は、トランプが対中だけでなく対欧関税も引き上げるという予想と整合的、と著者たちは言う。このユーロ下落は、関税による輸入物価の上昇とともにユーロ圏にインフレ圧力を伝播するであろう、という(ある意味如何にもブンデスバンクマンっぽい)警告を以って著者たちは記事を締めくくっている。