財務長官が強いドルという決まり文句に固執すべき理由

「Obviously a weaker dollar is good for us as it relates to trade and opportunities(弱いドルは貿易と機会につながるので明らかに我々にとって良いことだ)」というムニューシン財務長官の発言について、サマーズが表題の記事(原題は「Why Treasury Secretaries should stick with the strong dollar mantra」)で以下のような指摘を行っている

  • 歴代の財務長官は、政権における為替問題の唯一のスポークスマンとして、注意深く作成された原稿に基づき、長期的な健全性を視野に入れて発言していた。今回の発言は、原稿無しの近視眼的な重商主義的なものであり、強いドルの方針は不変というその後のロス商務長官の発言によって反駁された。これは政権の信認を傷付けるものであり、短期的には問題にならないとしても、財務長官の信認が大きくものを言う金融危機時に後悔する羽目になるかもしれない。
  • そうしたスタイルの問題を別にしても、過去7代の財務長官が強いドルにこだわったのには次の経済的理由がある:
    1. ドルの水準は交易条件を決定する
      • 弱いドルは米国の輸出価格を下げるにしても、輸入価格を上げ、米国の所得の購買力を下げる。
      • 通貨を切り下げ自分たちの商品を安売りして自らを貧しくするよりは、ファンダメンタルズを強化する方が良い。サマーズ自身が財務長官だった時に「通貨切り下げで繁栄する国はない」と頻繁にコメントしたのはそれが理由。
    2. ドル安は米金利上昇につながる可能性が高い
      • 輸出が強く、輸入価格が上がれば、失業率が4%近辺にある今、FRBへの金利上昇圧力は高まる。また、海外投資家は、ドル低下の代償として高い利回りを求める。
      • 金利が上昇すれば、投資は減少し、株価は下がり、金融が不安定化するリスクが高まる。
    3. 雪崩効果の恐れ
      • 今回のように急激なドル下落の後に政策当局者がドル低下を是認したように思われると、雪崩効果が発生する危険性がある。ドル下落によって資産価格が下がれば、それがドル売りを招く、という悪循環が生じる可能性がある。
      • 他国が競争力を保つために自国通貨の減価を求めることにより、通貨戦争が勃発する可能性もある。1987年の株式市場の暴落は米独のつばぜり合いが大きく寄与したと広く信じられている。
  • サマーズ自身の手痛い経験に照らすと、市場についての発言で踏み込み過ぎた時、自分の真意を明らかにしようとすると状況を悪化させる恐れがある。自分がムニューシンの立場ならば、次の発言の機会には、「貿易の経済原理は政策発言ではない。前任者たちと同様、強いドルは国益にかなうと私は信じている。この件に関する発言は以上。」と言うことだろう。