生産性上昇率は過小評価されている?

昨日取り上げたアダム・ポーゼンのブログエントリでは、サマーズ講演の要旨として、履歴効果の他に、そもそものカンファレンスの主題である生産性成長率の鈍化と、技術による失業の2点が挙げられていた。


生産性上昇率の鈍化については概ね以下のようなことが述べられている。

  • 米国のみならず中国でも非熟練労働者が労働市場から退出していることからすると、労働市場に残っている労働者の平均的な生産性は本来は世界的に上昇しているはず、という点をサマーズは指摘。
  • ポーゼン自身は、労働市場統計の方が、加工度の高いGDP統計より信頼できると考えている。ましてやGDPの資本・労働要因を取り除いた残差として計算される生産性の信頼性は低い。これはポーゼンが以前に英国のデータについて主張した点であり、生産性のデータが間違っているに違いない、というのがポーゼンの見解。
  • サマーズは労働と生産性のパズルを重要だが理解が難しい問題として提示するに留まったが、その一方で、計測の難しい医療やサービスなどの質の向上によって生産性上昇率が過小評価されている可能性を指摘した。
    • ただ、その問題は専門家も以前から認識しており、そうした計測の誤りが時を追って悪化していると信ずべき理由は乏しい、というのが多数派の見解。
    • カンファレンスでもその点についてジョン・ファーナルド(SF連銀)やロバート・ゴードンが講演を行い、技術進歩を織り込んで修正を掛けた場合、生産性の変化のタイミングは誤っていた、とか、インフレ指標は正しかった、といった主張がなされた。
    • サマーズ講演でのサマーズとファーナルドの質疑応答では、こうした問題への解決策として、共通の新技術の生産とインフレ率の計測方法を国同士で比較する、という案が出された。
  • もし生産性の過小評価の問題を深刻に受け止めるならば、インフレ率が現在の低い水準よりも一層低く、従って実質金利が実はもっと高いという可能性を考慮する必要がある。その場合、金融政策は人々が思うより引き締め気味で、インフレ目標からもっと離れていることになる。
    • そもそもポーゼンは、低インフレと世界経済のダウンサイドリスクからFRBの早期の金利引き上げに反対しているが、この話は将来のインフレが低くなり過ぎるという彼の懸念を一層強化する、との由。


技術による失業についての話は概ね以下の通り。

  • 技術による失業をサマーズは強調し過ぎているのではないか、という質問に対しサマーズは、確かに生産性上昇によってある種の仕事は無くなるが、全体の所得は向上し、新規の職も創出されるため、長期の一般均衡においては生産性向上と完全雇用は矛盾しない、というのが経済学者間では洗練された考え方と見做されている、と回答した。
  • その上でサマーズは、経済学者が単純過ぎるとして退けてきた考え方、即ち、技術によって職が破壊される一方でそれを埋め合わせる職の創出がなされないという考え方が仮に正しかったとすると、現在の世界の様相をある程度説明できる、という大胆なコメントを行った。具体的には:
    • 技術による置き換えの対象となった労働者、ないし、非熟練労働者の相対賃金の低下
    • 本人の選択か否かはともかくとして、結果として雇用者数が減少していること
    • 労働投入の恒久的な減少
  • ポーゼンは、これがもし正しければ非常に恐ろしいことだ(経済学者の自惚れがまた一つ潰されたという理由以外においても)、とコメント。労働者への需要の継続的な低下が、ケインズやSF作家が想像したような形で、所得再配分付きの余暇の普及という形態に転換されなければ、これは社会の安定や技術進歩にとって非常に悪い知らせとなる、との由。