オバマ硬化症は経済に後遺症をもたらしたか?

サマーズが、かつて自らがNEC委員長を務めたオバマ政権の経済的な負の遺産の有無について、EurosclerosisならぬObamasclerosisという些か刺激的な言葉を使って論じている
以下はその冒頭。

The Wall Street Journal’s Greg Ip, reviewing the Trump administration’s first Council of Economic Advisers report, finds credible its claims that President Barack Obama’s policies, particularly in his second term, materially slowed economic growth, even though Ip acknowledges that the CEA’s assertions regarding magnitudes are likely exaggerated.
The CEA’s thesis is that a wave of tax and regulatory policies reduced both workers’ incentives to work and businesses’ incentives to invest, leading to slower economic growth than would otherwise have been achievable.
I am sympathetic to arguments of this type, having often observed that “business confidence is the cheapest form of stimulus.” And I would be the last to argue that every regulatory intervention of the late Obama years was salutary. I would also note that much of what the Obama administration proposed (for example, more infrastructure spending and responsible tax reform) would have triggered even greater economic growth but never came to pass, largely due to congressional roadblocks. There was certainly more that could have been done.
(拙訳)
ウォールストリートジャーナルのグレッグ・イップは、トランプ政権の経済諮問委員会の最初のレポートを読んで、バラク・オバマ大統領の政策、特に2期目の政策が経済成長をかなり減速させた、というその主張は、減速の規模は誇張されているにせよ、信頼できる、と述べた
CEAの主張は、一連の税制や規制政策が労働者の勤労意欲と企業の投資意欲を共に削ぎ、経済成長率が達成できたはずよりも低いものとなった、というものである。
「企業の信頼感は最も安上がりな刺激策である」としばしば述べてきた私としては、この種の主張に共感する。また、オバマ政権後半の規制政策はすべて有益だった、などというつもりは毛頭ない。さらに、オバマ政権が提案したことの多く(例えばインフラ投資の増額や責任ある税制改革)は、実現していたら経済成長率を高めていただろうが、主として議会の反対のせいで成立しなかった、ということも言っておきたい。もっとやれることがあったのは確かだ。

その上でサマーズは、CEAの主張が成立しない理由として以下の3つを挙げている。

  1. 成長率低下の主な理由は全要素生産性TFP)の低下だった
    • 即ち、資本や労働投入の不足によるものではない。TFPは1996年から2004年に掛けておよそ年率1.75%で伸びたが、2005年以降の伸び率はその半分に低下した。
    • 金融危機があれだけ深刻なものだったことを考えると、労働投入や資本の水準が低下したとは言えない。実際、2016年の労働参加率は、2006年時点のFRBの研究者の予測にかなりの程度沿ったものとなった。従って、CEAレポートが挙げた様々な要因の重要性は低い。
  2. 失業率が4%まで下がったのにインフレは低いままである
    • インフレはコンセンサスやFRBのインフレ予測を下回り続けている。CEAが考えるように労働や資本が過少なことによって経済成長が鈍化しているならば、需要の伸びが供給制約に阻まれてインフレは高騰しているはずだが、実際には逆のことが起きている。
    • 一方、需要面の問題を強調する長期停滞仮説は、実際に起きている通りの低成長、低インフレ、低資本コストの組み合わせを予測している。
  3. 株価と企業利益は好調である
    • CEAの説は基本的に、近年、資本は規制負担や高い税や労働力不足に喘いでいる、というものだが、株式市場や企業利益の動きはそれに沿っていない。オバマ政権の第2期に企業利益は2割近く増え、S&P500は5割以上上昇した。
    • トランプ減税の恩恵の最大の使い道が自社株買いになっている、というのも同様のことを示唆している。近年の米国の投資を抑えているのは資本コストではない。

では、「オバマ硬化症」説が事実に適合しないというならば、何が経済成長の鈍化をもたらしたのか? サマーズは考えられる候補として、金融危機及びその後の景気後退の履歴効果、近年の経済における技術革新の応用の低下、各種市場で独占力が増し競争が無くなってきたことによる負の効果、を挙げている。