オバマ政権の経済失政は不可避だったのか

今月8日、エズラ・クラインがオバマ政権の経済危機対応を振り返る記事を書いた。以下、各人の反応。

デロング
サスキンド本*1よりずっと良い。確かに特効薬的な政策は存在しなかったかもしれないが、小規模や中規模の政策――それらの中には今も実行可能なものがある――を積み重ねていけば、また違った結果になっていただろう。
ケビン・ドラム
非常に優れた記事。オバマ政権は良くやったのではないか。70−80%の出来と言えるだろう。住宅問題は最大の失敗だったが、それについては、「無分別な」借り手を救済することへの納税者と議会の抵抗が、多くの評論家が指摘する以上の大きな制約となった。大不況への適切な対処の失敗は、オバマ政権のせいというよりは、いざ経済危機に直面した時に必要なだけの政策を投入する度胸を欠いてしまう、という人間の本質に根差すもの*2
スティーブ・ワルドマン
オバマ政権への評価が甘い。問題は銭金ではなく公平性にあるのだ。その点を無視して借り手や金融機関を救済するのは大きな禍根を招く*3
サムナー
記事は読む価値があるが、読むと鬱になる。サマーズは総需要からインフレへの因果関係しかないような発言をしているが、金融刺激策でインフレと総需要の双方を喚起できるというルーズベルトが分かっていたことを忘れてしまったらしい。ピーター・ダイアモンドはFRBがインフレ期待を作り出せない旨の発言をしているが、不換紙幣を発行する中央銀行がインフレを起こそうとして失敗した例は歴史上存在しない。
ライアン・アベント(H/T [http
//www.themoneyillusion.com/?p=11341:title=サムナーブログ]):クラインはFRBの失敗を軽視し過ぎ。また、FRBの総需要喚起策が限界に達したというサマーズやコーンやピーター・ダイアモンドの話を真に受け過ぎ。
クルーグマン
全体的にまともな分析。ただ、オバマチームを簡単に免責し過ぎた点がいくつかある。しかも、その失敗を挽回する可能性は、2年前よりも低くなっているものの、未だ存在するのだ。
    1. 2009年初めの経済統計が後になって下方改定されたため実は当時思っていたよりも状況が悪かった、という点を重視し過ぎ。読者はご存知の通り、当時の自分は、経済がひどい状況にあるので政権提案よりもかなり大規模な刺激策が必要、ということを必死に訴えていた。
    2. 刺激策が無くても経済は急速に回復するという当時の予測の前提は不可解だった。ラインハート=ロゴフを持ち出すまでもなく、過去2回の米国の景気循環を見れば、不況が長引くと信ずべき多くの理由があった。この点についても当時自分は警告していた。
    3. 従って、すぐに取り掛かれる公共投資に焦点を当てたのは的外れだった。減税よりもっとインフラ投資に重点を置いていれば、刺激策はもっと適切なものになっていただろう。
    4. 最初の刺激策が不十分ならば、また別の刺激策を策定すれば良い、と考えていた点で政権は非常にナイーブだった。この点についても自分は当初から必死に警告していた。もしそう考えていたならば、議会との調整も含め、2番目の刺激策のための法案の準備をしておくべきだった。
    5. 仮にそうした準備をしていなかったとしても、2009年秋には追加策のチャンスはあったのに、政権は試そうともしなかった。
    6. 最初の刺激策が十分だったという立場に後々までこだわったことは、多くの政治的ダメージをもたらした。
    7. 新しい雇用創出法案への政治的反応が上々であることを考えると、2010年に雇用から赤字削減に軸足を移したことは大きな間違いだった。仮に法案を議会に通すことができなかったとしても、共和党の言い分を受け入れるよりも、雇用創出を妨害したかどで共和党を非難することの方が得点が稼げたはず。

*1:cf. ここ

*2:その意味でも高橋是清はやはり例外的だったと言うべきなのだろうか…。

*3:カバレロブラインダーコラテラル・ダメージとして甘受すべきとした事柄が、ワルドマンはどうしても許せないらしい。cf. ここ