ウッドフォードがやってくる!

ジャクソンホールで提示した論文マイケル・ウッドフォードが名目GDP目標支持を表明したことで、市場マネタリスト界隈がちょっとした祭り状態になった:


もちろん、大物経済学者の発言だけに、市場マネタリスト以外の注目度も高く、WSJブログがバーナンキ以外で最も注目される講演と評したほか、クルーグマンも「Important stuff」と評している


そうした中で、ロバート・ワルドマンとStephen Williamsonという経済学者としてはおよそ両極に位置する2人が、ウッドフォードに批判的なコメントを寄せているのが興味深い(言うなれば、オールドケインジアンとニューマネタリストが、ニューケインジアンの代表的な金融学者を挟撃する、という構図になっている)。


ワルドマンはマシュー・イグレシアスのブログエントリツイートを足掛かりに*1、論文の結論部しか読んでいないと断りつつも、以下のように論じている

  • ウッドフォードは名目GDP目標がGDPに顕著な(もしくは少なくとも検出可能な)影響を与えるか否かについて明確な見解を示していない。
  • ウッドフォードは将来の政策に関する約束の無いQEの無効性について大いに論じているが、遠い将来の政策が効果を発揮するという証拠を何ら示していない。その理由は単純で、期待インフレ率を上昇させようと試みた中央銀行は未だ存在しないからだ。
  • ウッドフォードは、中央銀行の中長期の政策ガイダンスがもたらす効果についての情報を我々は事実上有していない、と示唆するが、期待インフレ率の上昇ではなく低下についてならば、そうした情報は大量に存在する。70年代終わりから80年代初めに掛けて金融当局は、自分たちが低インフレを真摯に達成しようとしていることを人々に納得させようと必死に試みた。もし期待経路が(他の経路が塞がれている場合においても)機能するというならば、短期リスクフリーレートの高騰や深刻な景気後退や歴史的な高失業率といった直接的な効果抜きでも、そうした金融銀行のコミュニケーションにより低インフレが達成できたはずだ。即ち、金融当局の中期目標に関する声明が、期待経路以外の政策抜きには決して達成できなかった、という証拠は大量に存在する。
  • ウッドフォードもイグレシアスも、こうした歴史的な証拠が自らの主張に対する反証にはならない、という点については説明できていない。
  • イグレシアスは、ウッドフォードは雇用創出法を分かっている、とツイートしたが、数学的な証明もしくは証拠の提示が無い限り、分かっている、とは言えない。


一方のWilliamsonは、この96ページの論文は、時間価値がゼロで無いならば読む必要無し、と痛撃している*2。その上で、FRBが苦労して培ったインフレ抑制のコミットメントを放棄するべきではない、と論じ、以下のように結んでいる。

Woodford seems not to think much of QE, and goes off on an extensive discussion of forward guidance, most of which made me happy that Woodford is not in charge of forward guidance at the Fed. If he were, we would never understand what they are up to.
(拙訳)
ウッドフォードは量的緩和をあまり評価していないようだ。その上で将来政策のガイダンスについて大いに論じているが、それを読むと、ウッドフォードがFRBで将来政策のガイダンスに関与していないことが喜ばしく思える。もし関与していたら、FRBが何をやろうとしているのか我々は決して理解できないだろう。


また、批判というほどではないが、上記のNunesがリンクしているEconomist's ViewエントリでMark Thomaは、ウッドフォードの名目GDP目標支持にばかり注目が集まっていることに異議を唱えている。

*1:ちなみにワルドマンは以前からイグレシアスのリフレ派ないし市場マネタリスト的な言動に対し、金融政策の限界を分かっていないという趣旨の批判を折りに触れ加えてきた。これ以前の直近では例えばここ。(なぜかこの人はイグレシアスに結構粘着している)

*2:このWSJ記事によると、この論文の長さはジャクソンホールでも話題になったが、2008年のWillem Buiterの論文は144ページでもっと長かった、というこぼれ話を紹介している。