テイラールールを法制化すべきでない7つの理由

テイラールールのようなルールにFRBが従うことを法制化することが米議会で昨年夏以来審議されており、この件を巡って経済学者の間で議論が起きている。テイラー自身は当然のように賛成しており、反対派のアラン・ブラインダーとWSJ紙上で論争を繰り広げている(関連テイラーブログエントリ=ここここここここ)。
最近のブログエントリでTony Yatesも反対論をぶち上げ、7つの問題点を指摘したクルーグマンもYatesの見方を支持し、大不況後にゼロ金利状態が長引いていることを考えると、世界はテイラールール派が想定しているよりも遥かに危険なところなのだ、と論じた

以下はYatesの挙げた7つのポイントの概略。

  1. 素晴らしい指針だと思われていたテイラールールが数年後にそうではなかったことが分かったとしても、法律を変えるのは容易ではない。

  2. FRBに金融政策を委ねる正しいやり方は、明確に設定された目標について、FRBは達成方法を決定して結果責任を負う、というもの(以前は定められていなかった価格安定化の数値目標をFRB自身が定めたというのは、その点で不幸な話であった)。今回の法制化はFRBの政策運用の独立性に干渉する悪しき前例となる。仮に今回の干渉が善意に根差していたとしても(実際はそうではないが)、次の干渉は本当に悪しき政治目的のためのものとなるかもしれない。

  3. 米議会が公正な結論に達することがあるとは近年は期待できない。FRBを制御しようという動きは、FRBの積極主義――Yatesに言わせれば、賞賛に値するもの――は米国の問題を解決するものではなくその一部だ、というリバタリアンの理屈抜きの感情に根差した完全に政治的なものではないか。

  4. テイラールールないし同様の特定のルールは、非常に限られた種類のDSGEモデルで良いパフォーマンスを示したことがあるに過ぎない。そうしたモデルは、金融政策設計の検証の土台としては、危機後に信頼性が低下したように思われる。大平穏期にはテイラールールのようなルールがマクロ経済が上手くいっている理由として幅を利かせていたが、危機は、当時それが法制化されなかったことが非常に素晴らしいことであったことをある意味において示した。

  5. ルールを説明する行為はFRBを制約することにはならない、というジョン・テイラーの主張は正しくないはずだ。もしそれが目的ないし想定されている帰結でなければ、そもそも法制化の意味がない。テイラーは説明することによってルールにより忠実に従うようになることを望んでいるのだ。

  6. FRBは法制化抜きでも十分に説明してきた。研究論文や予測、PhDを持つFOMC委員の研究講演、およびFOMC議事録でもルールに絶えず言及してきた。「説明」のプロセスを強制する法制化が必要な理由はどこに?

  7. テイラーが法制化を支持するのは、テイラールールからの逸脱が金融危機の主因であった、という彼の見解に基づいている。しかしその根拠は薄弱だ。テイラールールが良き政策となっているテイラー自身が開発したモデルでは、金融政策はそこまで強力で持続的な実体経済への影響を及ぼすことはない。
    • 上述したように、そうしたモデルを捨て去るべき理由も十分に存在する。もしそれらのモデルを捨て去ったならば、テイラールールやその手のルールを政策の処方箋として適用し続けることはできなくなる。その場合、長期に亘る新たな学習プロセスが必要となるが、法制化はその役には立たない。
    • 2000年代前半に金融政策が本来あるべきよりも緩和的だった、という考えに対してはバーナンキが非常に決定的な反論を行っている。テイラールールは(マッカラムがかなり以前に指摘したように)実地には適用できないのだ。というのは、そのルールには、リアルタイムには利用できない同時点のインフレとGDPが含まれているからだ。代わりに予測値を代入すると、政策は適切だったということになる。また、他の政策の失敗が危機の原因だったというかなり強力な状況証拠も幾つか存在している!
    • テイラーのこの主張は、彼の財政政策についての主張とセットで考えるべきだろう。彼はオバマ政権の発足当初に議決された財政刺激策がルールに基づく政策行動から逸脱していたと考えている。しかし、テイラー自身が開発した、テイラールールの検証の土台となっているまさにそのモデルで、財政刺激策は景気後退への最適反応となっている。